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*  目が覚めた時、俺は保健室で寝ていた。 「……?」  保健室だと分かったのは、見慣れた天井じゃなかったから。あと、独特の匂いと空気のせい。ムクリと身体を起こした。 「おう、起きたか猫田」  いきなりカーテンが開けられて、保健医の小野先生が顔を出した。 「小野先生、俺いつからここに?」 「昼休みに弁当食ってる最中に倒れたらしいぞ。犬塚が血相変えてお前抱えて飛び込んできた」 「昂平が?」  えーっと今日の昼休み、俺はいつもみたいに昂平とおかずを交換しながら弁当を食べてて…… 『ま、理音には今更って感じか』  ああそっか、俺、昂平に遊び人だって思われたんだっけ。それがなんかすげーショックで、いきなり気分悪くなって……それと、すげー眠たくて…… 「……ご迷惑おかけしました」 「俺は何もしてねぇよ。礼を言うなら犬塚に言っとけ。あいつマジでお前のこと心配してたからな」 「はい」  昂平はやっぱり優しいな。嘘つきの俺なんかほっとけばいいのに。 「それにしてもよく男をお姫様抱っこなんかできるよな。いくらお前が細くて軽いっつってもよ。馬鹿力だなアイツ」 「……!」 「女子にやったらすげえモテるんだろうけどな。犬塚って無駄にでかいし仏頂面だし、いつもお前が隣にいるからあんまりモテねえだろ。損な奴だよな」  昂平……。 「でもあいつ、多分俺以外にはお姫様抱っこなんてしませんよ」 「あん?何でだよ」 「俺、あいつのお姫様らしいんで」 眉毛を下げて、笑って言った。 「なんだそりゃ。愛されてんだなおまえ」 「冗談ですよ」 何でだろう、誰でもいいから自慢したくなった。俺が昂平に甘やかされていること。昂平が俺だけに、すっごく優しいことを……。 「んじゃ、起きたんならホームルームが始まる前に帰った帰った」 「はい、またベッド貸してくださいね、小野先生」 「今度も犬塚にお姫様抱っこで運んでもらえよ」 「またブッ倒れろってこと!?」  今日の仕事が終わったら、昂平の家に行こう。ちゃんと誤解を解こう。幼馴染として、勘違いされたまんまじゃ嫌だから。 ……別に、変なことじゃないよな?  学校が終わり、校門に行くと斎藤さんが車をつけて待っていて、仕事場へ直行した。千歳くんの代わりの仕事は、なんてことない家具カタログのモデルだった。一人暮らしの男性向けみたいな。  別に千歳くんじゃなくても俺じゃなくてもいい仕事だ。疲れてたし、集中してちゃちゃっと撮影を終わらせた。 楽屋で着替えてると、斎藤さんに声をかけられた。 「いや~いきなり頼んでごめんねRION!でもすっごいよかったよ、特にベッドのとこ」 「はあ、セクシーだなんだっていうんでしょ」 「いやだって実際RIONはセクシーだしね!カメラマンにちょっと色気抑えてって言われてたのは笑ったよ」 「そんなもん、普段も出してるつもりはないんですけどねぇ」  意識してやってないものを抑えろと言われても難しいから、極力レンズから目線を外してポーズを決めていた。 「いやーでも、カメラ通したらなんかすごくセクシーっていうか……切なげな顔するよね、RION。なんかイメトレとかしてるの?」 「え」  イメトレというか、思い当たるのはひとつだけだ。まだカメラを向けられることに全然慣れなくてガッチガチだったころ、一人のカメラマンが俺にアドバイスしてくれたんだ。 『好きな人に見られてる、と思ってみてよ』 『好きな人に?』 『そう、そしたら自然にリラックスできるから』 『こう……かな?』 『……うん、うんうん!すごくいいよRION!その顔だよ!』 セクシーだのエロだのなんだのって言われ出したのは、あの撮影からだっけな。 「まあ、見る側の問題ですよ」 「そんなことないと思うけどな~」 「ってそんなことはどうでもいいから、早く帰りたいです俺。昨日からすっげー寝不足なんですよ、昼休みと午後の授業時間全部、保健室で寝てたくらい」 「ふうん、そうなんだ」  あ、帰りに昂平の家に寄るんだった。部活はもう終わってるよな、もう8時だし。少し緊張するな……。
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