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13
閑静な住宅街の中。俺の家から少し手前の、昂平の家が見えてきた。
「斎藤さん、今日はここで下ろして下さい」
「え?RIONの家はもう少し先でしょ?」
「友達に用があるんで。お疲れ様でした」
車を降りて、手を振って斎藤さんを見送った。さて。なんって、伝えればいいかな……。
『俺は女と遊んだりしてねぇ』
うーん。もうひとひねりほしい感じ。
『俺はヤリチンじゃねぇ』
いやいや、なんか直接的すぎだろ。
『俺がそーゆーことしたいと思うのは、昂平だけだから』
まさかまさか。それが言えたら苦労しねーっつの。
「何やってるんだ、理音」
「うわああぁぁっ!?!?」
てっきり家の中にいると思っていた昂平がいきなり背後に現れて、俺は近所迷惑なくらいの声で叫んでしまった。
「ばか、うるさい」
「い、いきなり話しかけんなよ!」
「別にいきなりじゃない。うちに何か用か?」
あーびっくりした。昂平はよく見ると私服で、ここから一番近いコンビニの袋を下げていた。
「えっと……千恵さんは?」
「まだ仕事だけど。久し振りに上がってくか?」
「や、いい」
やばい、なんか緊張してきた。
「もう身体は大丈夫なのか?理音」
「え。ああ!お前が保健室まで運んでくれたんだっけ、サンキュー」
「ますますお姫様扱いしてしまったけどな」
「っ」
こいつ、もう二度と姫とか言わないって言った癖に。
「怒るなよ、理音」
どう反応していいか分からずに俯いてたら、昂平が俺の頭に手を置いた。朝とか昼だったら『何すんだ!』つって派手に払いのけるのに、なんだか今はそうしたくない。夜だけは色々許したい気分になるのは、どうしてだろう。
あのこと、ちゃんと言わなきゃ。今なら……
「あ、あのさ昂平!」
「ん?」
なんて言おう、えっと、えっと――
「――俺、あの、まだ童貞だから!」
あうっ。
「……………は?」
何暴露してんだよ俺!!ボンッて音が聞こえるくらい急激に赤くなったと思う。夜だからバレないと思うけど!
ああ、マジで何盛大なカミングアウトしてんだ!昂平を見てたらドキドキして混乱して、つい言わなくてもいいこと言っちまったよ!!でももういいや、言うこと言っちまおう、ヤケクソだ!
「だだだからぁ、俺がいつも佐倉先輩たちに言ってる武勇伝は全部嘘なんだよ!!ただの見栄!!つか女と遊ぶ時間とか、日本一忙しい高校生の俺にあるわけねぇだろ!けど進藤とかに舐められるのは嫌だし!」
「お、おう」
「でも、昂平にはそんな見栄はる必要なんてねぇし!だから、俺のこと遊んでるって思……っ、!?」
なぜか俺は、いきなり昂平に抱きしめられていた。
「な、な、な、」
今度はプシューって音が聞こえてきそうだった。顔から湯気が出る効果音な。
「ごめん理音。その、武勇伝が嘘ってことはなんとなく分かってたから。昼間は意地悪なことを言って本当にごめん」
「……!」
なんとなく分かってたって……じゃあ誤解はしてなかったってことか?
「あ、悪い」
いきなり体を離されて、俺も我に返った。でも、色々とキャパオーバーで何も言葉にすることができない。そんな俺を無視して、昂平は続けた。
「分かってたっていうか……小野先生と話して気付いたんだけど。でもまあ、意識はしてなかったというか……」
「そっ、それより、なんでいま抱きしめた!?」
「いや、つい。ここで抱きしめないと男じゃないかな、と」
「はあぁ!?」
何言ってんだよこいつは!!
「最終的にお前が悪い」
「なんでだよ !?」
昂平の野郎、意味わかんねぇ!でも抱きしめられて嬉しい俺もヤバい!!顔がにやけてしまわないように、盛大に怒ってるフリをした。
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