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 閑静な住宅街の中。俺の家から少し手前の、昂平の家が見えてきた。 「斎藤さん、今日はここで下ろして下さい」 「え?RIONの家はもう少し先でしょ?」 「友達に用があるんで。お疲れ様でした」 車を降りて、手を振って斎藤さんを見送った。さて。なんって、伝えればいいかな……。 『俺は女と遊んだりしてねぇ』 うーん。もうひとひねりほしい感じ。 『俺はヤリチンじゃねぇ』  いやいや、なんか直接的すぎだろ。 『俺がそーゆーことしたいと思うのは、昂平だけだから』 まさかまさか。それが言えたら苦労しねーっつの。 「何やってるんだ、理音」 「うわああぁぁっ!?!?」  てっきり家の中にいると思っていた昂平がいきなり背後に現れて、俺は近所迷惑なくらいの声で叫んでしまった。 「ばか、うるさい」 「い、いきなり話しかけんなよ!」 「別にいきなりじゃない。うちに何か用か?」 あーびっくりした。昂平はよく見ると私服で、ここから一番近いコンビニの袋を下げていた。 「えっと……千恵さんは?」 「まだ仕事だけど。久し振りに上がってくか?」 「や、いい」 やばい、なんか緊張してきた。 「もう身体は大丈夫なのか?理音」 「え。ああ!お前が保健室まで運んでくれたんだっけ、サンキュー」 「ますますお姫様扱いしてしまったけどな」 「っ」 こいつ、もう二度と姫とか言わないって言った癖に。 「怒るなよ、理音」  どう反応していいか分からずに俯いてたら、昂平が俺の頭に手を置いた。朝とか昼だったら『何すんだ!』つって派手に払いのけるのに、なんだか今はそうしたくない。夜だけは色々許したい気分になるのは、どうしてだろう。 あのこと、ちゃんと言わなきゃ。今なら…… 「あ、あのさ昂平!」 「ん?」 なんて言おう、えっと、えっと―― 「――俺、あの、まだ童貞だから!」 あうっ。 「……………は?」 何暴露してんだよ俺!!ボンッて音が聞こえるくらい急激に赤くなったと思う。夜だからバレないと思うけど! ああ、マジで何盛大なカミングアウトしてんだ!昂平を見てたらドキドキして混乱して、つい言わなくてもいいこと言っちまったよ!!でももういいや、言うこと言っちまおう、ヤケクソだ! 「だだだからぁ、俺がいつも佐倉先輩たちに言ってる武勇伝は全部嘘なんだよ!!ただの見栄!!つか女と遊ぶ時間とか、日本一忙しい高校生の俺にあるわけねぇだろ!けど進藤とかに舐められるのは嫌だし!」 「お、おう」 「でも、昂平にはそんな見栄はる必要なんてねぇし!だから、俺のこと遊んでるって思……っ、!?」  なぜか俺は、いきなり昂平に抱きしめられていた。 「な、な、な、」  今度はプシューって音が聞こえてきそうだった。顔から湯気が出る効果音な。 「ごめん理音。その、武勇伝が嘘ってことはなんとなく分かってたから。昼間は意地悪なことを言って本当にごめん」 「……!」  なんとなく分かってたって……じゃあ誤解はしてなかったってことか? 「あ、悪い」  いきなり体を離されて、俺も我に返った。でも、色々とキャパオーバーで何も言葉にすることができない。そんな俺を無視して、昂平は続けた。 「分かってたっていうか……小野先生と話して気付いたんだけど。でもまあ、意識はしてなかったというか……」 「そっ、それより、なんでいま抱きしめた!?」 「いや、つい。ここで抱きしめないと男じゃないかな、と」 「はあぁ!?」 何言ってんだよこいつは!! 「最終的にお前が悪い」 「なんでだよ !?」  昂平の野郎、意味わかんねぇ!でも抱きしめられて嬉しい俺もヤバい!!顔がにやけてしまわないように、盛大に怒ってるフリをした。
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