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「ふ、ふざけんな!俺が童貞だったからってからかってんのかよ、この野郎!あほ!ばか!タコ!イカ!」 思い付く限りの罵詈雑言を投げつけた。でないと、抱きしめられた嬉しさと恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだったから。 「いや、俺も童貞だし」 「え」 そうなのか。てか逆にそれ、今まで考えたことなかったかも。昂平に彼女ができる、とか……。でも童貞ってことはいないんだよな。よかった!! 「でも、理音から本当のことを言ってもらえて安心した。俺、おまえの交遊関係とか全然知らないし、遊んでないってのも俺が勝手に思っただけで、確信はなかったっていうか……」 そう言って、昂平はがしがしと頭をかいた。 「そんなこと気にしてたのか?」 「理音は俺の弟みたいなものだしな。それがいきなり芸能界みたいなよくわかんないとこに足突っ込んで、心配するのは当たり前だろうが」 弟……。いやいや、いちいち傷付くな、俺。変に反応したらバレるし。兄弟みたいに育ってきたのは事実なんだから。うん。 「じゃあ、これからはちゃんと話す」 「ん?」 「俺だって昂平に心配かけたくないから、モデルの友達とか先輩とか、お世話になってる人のこととか全部教える」 「うん」 「童貞卒業した、とかもな!」 「……おお」 昂平が微妙な顔をした。それは聞きたくないってことか?俺も昂平のそんな話は聞きたくないけど。 「じゃ、そういうわけで俺は帰るから!」 「明日も朝練出るのか?」 「当たり前だろ!」 「じゃあ、俺が勝手に部屋入っても怒るなよ」 「……それは怒る」 別に見られて困るものなんかないけど、しいて言えば昂平に寝顔を見られるのが恥ずかしいんだ。俺の気持ちも知らずにのんきだよな。早く起きれれば問題ねぇんだけどさ。 「じゃあな!……あ、千恵さんこんばんは」 「久し振りねー、りおちゃん」    昂平の後ろから、いきなりぬっと昂平の母親の千恵さんが現れた。昂平の背中で視界が遮られていたから、全然気付かなかったし。ちなみに千恵さんは市民病院の看護師をしている。今帰りとか遅いなぁ。 「なによ、外で二人で立ち話なんかして。りおちゃん、あがっていかないの?」 「明日も早いんでいいです、また今度お邪魔します」 「そう、いつでも来てね。あたしは居ないことが多いけど、代わりにこの馬鹿がいるから」 「息子に馬鹿とはなんだ、馬鹿とは」 昂平は父親を亡くしてから、千恵さんと二人暮らしだ。 「それにしてもウチの子は分かるけど、りおちゃんもまだ童貞なんだぁ。意外ねぇ~」 「え?」 「うふっ」 き か れ て た …… !! 「じっ、じゃあ俺はこれで!おやすみなさい!!」 「あ、りおちゃん!美奈子によろしくねー!」 「理音、また明日な」  俺はダッシュで徒歩1分の我が家へと逃げ帰った。もう……もう恥ずかしくて、しばらく千恵さんの顔見られねぇよぉ!! 「母さん、理音は俺と違って繊細なんだからもうちょっとデリカシーをだな……」 「つい昂平と話すノリで……りおちゃんに悪いことしちゃった」  今日の内にうちの母にまで俺のシモ事情がばれてしまうとは、この時の俺はまだ気付いていないのだった。
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