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17
『俺も好きな人がいるんだよ。……男の』
『!』
いきなりの宇佐木のカミングアウトに、俺の表情は一瞬で元に戻った。
『俺さ、けっこー遊び人なんだけど……あの人のことは本気なんだ。だから今は遊んでない。でまぁせっかくガキくさいコーコーセーやってるわけだし?友達でも作って恋バナとか可愛いコトがしてみたかっただけ。そこに同じ趣向のお前がいたから声かけてみた。……迷惑だった?』
少しだけさびしそうな顔で笑う宇佐木は、もう全然不良には見えなかった。よくよく見れば、男のくせに線が細くて綺麗な顔をしている。理音には遠く及ばないが。
『どうして俺がそうだってわかったんだ?』
宇佐木の質問には答えず、質問で返した。これが一番聞きたいことだったし。あと理音に関係なければ別に迷惑でも何でもない。
『分かる奴には分かるもんだよ。雰囲気でね』
『……そんな雰囲気、出してるつもりない』
『だから分かる奴には、って言ってんじゃん』
困ったように笑う宇佐木。なんだかよくわからないが、こいつは一応勇気を出して俺に話しかけてきたんだってことだけは分かった。つーか、不本意だが俺がゲイ……じゃなかったらコイツ、どうする気だったんだ。
『で、そのリオンくんを抱きたいの?犬塚は』
『だっ!?』
『それとも抱かれたいの?』
『ちょっちょっと待てちょっと待て!何だそのアレはちょっと待て』
抱くだの抱かれたいだの、意味は分かってるが童貞には刺激が強すぎるんだが!?(この時の質問がきっかけで俺はあらぬ妄想にふけるようになった)
『ちなみに俺は抱かれたい側の人ね』
『そ、そうなのか』
また妙なカミングアウトをされてしまった。理音を抱く?……俺が? そんなの、想像しただけで鼻血が出そうだ。
『お、おい犬塚、鼻血出てるぞ!』
『え?』
出そうと思ったら既に出てた。
……とまあ、これが俺と宇佐木が仲良くなるきっかけだ。最悪だったのは、俺が鼻血を出したこと。そんな奴と二か月でここまで仲良くなるなんて、あの時は思ってもみなかった。
宇佐木は話しやすいし話題も豊富だし、ウザくないし見目もいいし、勿論俺以外にはゲイなんて雰囲気は微塵も見せない。しかし、理音がモデルのRIONだと教えた時は『マジでええ!?ちょっと俺ファンなんだけど!!』という反応だったので――同級生に興味が無さすぎて知らなかったらしい――紹介しようと思ったが、未だにしないでいる。
できないじゃなくて、しないんだ。万が一、宇佐木が理音を好きになったら(ファンだから元々好きなんだろうけど)面倒くさいことになるからだ。
ちなみに宇佐木の好きな奴は保健室のおっさんらしい。悪趣味としか言い様がない。あんなおっさんのどこがいいんだ?ちゃんとしたらイイ男だと思えなくもないが、いつもだるそうで、無精ひげを生やしていて、休み時間のたびにタバコを吸わなきゃ生きていけないようなヘビースモーカーだ。
あんなのが好きな宇佐木が、綺麗で可愛くてカッコいい理音を好きになるとは到底思えないのだが、それでも可能性がまったくないとは言い切れない。俺が心配性なわけじゃない、決して。
「なーわんこ」
「なんだ。つーかわんこって言うな」
「そろそろ限界なんじゃねーの?」
「何がだ?」
「……欲求不満っつーか、性欲だだ洩れだよ?お前」
「は!?」
宇佐木はにやにやと笑っている。俺はどちらかというと普段は仏頂面で、理音にも『お前って何考えてるかわかんね』と言われるのに、なぜか宇佐木には考えてることがバレてしまうようだった。
「そらお前、チェリーの考えてることなんてわかりますよ」
「何で俺の言いたいことがわかった!?」
「今言っただろ」
ホントお前って仲良くなると残念な奴だよなァ、とけらけら笑いながら失礼なことをのたまう宇佐木。どっちがだ。不良みたいな風貌なくせに、授業は真面目に出てて実は頭もいいとかなんなんだお前は。(金髪もピアスも不良だからじゃなくて、オシャレでしてるらしかった)その時。
「きゃー!RIONだ!」
「どうしたの?犬塚くんに用事!?」
「犬塚くーん!RIONが来たよー!!」
女子の黄色い声の方を振り向くと、後方のドアのところに理音がポツンと立っていた。
「あーあ、さっさと俺を紹介しとけばよかったのになぁ」
「は?」
後ろで宇佐木が呟いたが、意味はよくわからなかった。
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