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次の英語の授業で使う辞書を忘れてしまったから、昂平に借りようと思って2組に来た。そしたら俺は、クラスメイトととても楽しそうに話す昂平の姿を見てしまった。――ショックだった。
あんなに楽しそうに話す昂平は、今まで見たことがなかったから。俺と話してる時以外に。
昂平が話していた相手は金髪でピアスをしていて一見不良っぽかったけど、不良が適当にやっている髪染めやピアスとは明らかに違っていた。全てが計算されていて、相当なオシャレ上級者に間違いない、とモデルである俺は思った。一緒に服とか買いに行きたい感じ。
なんでそんなやつが、オシャレとはまるで無縁な昂平――ダサイというわけじゃないが、デニムにパーカーみたいな適当な感じ――と一緒にいるのか、ぶっちゃけ違和感しかない。
ていうかあいつは一体誰だ。どうして昂平とそんなに仲良さげに話してるんだ。どう見てもただのクラスメイトじゃない。
昂平、なんで……
「あ、RIONだ!」
「どうしたの?犬塚くんに用事ー?」
俺に気付いた女子が声をかけてくれた。俺と昂平が幼馴染で仲がいいことは周知の事実だ。昂平は名前を呼ばれると俺のほうを振り向いた。一瞬驚いた顔をしたが、次の瞬間には俺にしかわからないだろうけど、嬉しそうな顔をした。そしてその時、金髪の男が昂平に何かを囁いた。
――何だ?
昂平は振り向いてよくわからない反応をすると、俺の方まで来てくれた。
「理音、どうした?」
「誰だよ」
「え?」
「あいつ、誰?」
辞書を借りに来たことも忘れて、俺は視線を金髪に向けたままでそう言った。すると昂平は「あー」と言いながらぼりぼりと頭をかき、ちらりとアイツの方を見た。そして。
「お前が知る必要ない奴だよ」
と、言った。
「……なんだよそれ」
「ん?」
「なんで俺が誰だってきいてんのに、知らなくていいとか言うわけ?俺もお前にモデルの交遊関係教えるって言ったじゃねーかよ!ならお前だって教えてくれてもいいんじゃねえの!?」
「いやだって、アイツが理音に関わってもろくなことないだろうし」
イライラする。いや、ムカムカ?多分どっちもだ。
「だから、なんでそれを昂平が決めるんだよ!!」
「な、何怒ってるんだ?理音」
昂平は本気で分からないって顔をしている。誰だって聞かれたんだから素直に教えればいいのに、このばか!なんで言いたくないんだよ!
「ハイハイ、ケンカしなーい」
金髪が俺たちの方へ来た。なんだか余裕たっぷりに笑みを浮かべていて、それがまた俺の勘に触る。
「ったく、ヘンに意地張ってないでさくっと紹介してくれりゃいいのに。俺と関わってもろくなことないとか失礼極まりないし!まあその通りだけど。俺は宇佐木葵っていいまーす、いつもわんこにお世話に……いや、お世話してます、かな?よろしく理音くん」
馴れ馴れしく初対面の人間を下の名前で呼ぶなよ。校内で俺を知ってるやつは大概RION、RIONと呼び捨てだから、コイツはまだ礼儀正しいほうだと言えるんだろうけど。
お世話してますとか何だよ?何様?何気取り?わんことか何、そのあだ名。俺でさえそんなあだ名で呼んだことないのに!
「そんなに睨まないでよ、俺は君のファンなんだからさ」
は?ファン?ファンは男でも女でも有り難い存在だけど、何故か全然嬉しくない。
「ちょっと黙ってろうさぎどん。理音、何か借りに来たんじゃないのか?もうすぐチャイム鳴るぞ」
あ、そうだった。てか今の何?うさぎどん?昔話かよ。
「……英語の辞書忘れた」
「ハイハイ、待ってろ」
チャイムが鳴った。昂平が辞書を取りに行ってる間、俺は金髪――宇佐木と睨み合いをしていた。奴はニコニコしながら俺を見てるだけだが、その余裕な態度がまたムカつく。
「――犬塚ってさぁ」
「あ?」
「カッコいいよね」
……ホントに何様なんだよ。
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