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俺の名前は猫田理音(ねこたりおん)。17歳、高校二年生。部活は補欠だけどバレーボール部。中学の時も同じ。好きなものは甘いモノ。苦手なものはお化け屋敷……というかホラー全般。身長は178センチ。そして自分で言うのもなんだが、めちゃくちゃ美形だ。 「……何変な顔してるんだ理音、もっと速く走れよ」 不意に振り向いた昂平に突っ込まれた。 「変な顔じゃねぇ!ドヤ顔だ!」 「なんでドヤ顔してるんだよ」 「うるせー、秘密だっ!!」 「変な奴だな」  好きなもの、もういっこ忘れてた。モノじゃねぇけど。ヒトだけど。それは、俺の前を走るコイツ。幼なじみの犬塚昂平。   母親同士が親友で、(どういうつもりか息子の俺たちにはそれぞれ名前をさん付けで呼ばせている)家も近所で同い年だから、小さい頃からまるで双子の兄弟のように一緒に育ってきた。 『りおちゃん、だいすきだよ』 『おれもこーちゃんのこと、だいすきだよ!』  いつから昂平のことが好きだったのかなんて、きっかけすら今はもう思い出せない。俺は物心付いた頃から昂平のことが大好きで、成長するにつれてそれは恋愛対象に変わっていった。おかしいってことは分かってる。だからこの気持ちはずっと隠してきた。  中学を卒業しても昂平と離れたくなくて、同じ高校を受験することにした。昂平は俺と違って頭が良いから、第一志望は結構有名な進学校。(家の近所だからという理由もあった)俺は、『万一合格しても勉強についていけないだろうからやめておけ』という周囲の反対を押しきって死ぬほど勉強し、昂平と並んで見事に合格した。 それはもはや執念だった。無謀でも、勉強に付いていけなくてもいい。ただ、昂平のそばにいたかった。 「ぅわっ!?」 「理音!」 ボーッとして走ってたら、思いきり石に躓いて転びそうになった。顔、顔だけは傷つけたらいけない!顔だけは受け身をとって守らなきゃ―― 「……ん?」 「大丈夫か?走るときはちゃんと足元にも注意しろ。相変わらずドジな奴だな」 「!!」 昂平が、抱き止めてくれていた。朝よりも近い距離は、目覚めた直後より心臓に悪い。 「さ、さんきゅー……」 俺は体勢を整えると、赤くなった顔を見られないように下を向き、さりげなく昂平の身体を押して離れた。 「ドヤ顔なんてして走ってるからだ」 「し、してねぇよもう!」 「どーだか」 幼い頃から変わらない笑顔。呼び方は変わったけど、俺を呼んでくれる優しい声。俺みたいに染めたりしてない、爽やかな黒い短髪。仏頂面で女子には怖がられてるが、整った顔立ち。馬鹿みたいに伸びた身長。文武両道、バレー部のエースアタッカー。  昂平が好きだ。何年目か分からない片想い。もしこの気持ちを伝えたら、俺は昂平に気持ち悪がられ、軽蔑されて、俺たちの縁は切れるんだろうか。そんなの絶対に嫌だ。耐えられない。 だから俺は、今日も自分の気持ちを隠す。
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