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23
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昂平の顔が、まともに見れない。
久しぶりに昂平の家にお泊まりをしたのが、今から丁度一週間前のこと。英語の課題を教えてもらうために押しかけたんだけど、どうせ朝起きるのも早いし、わざわざウチに来させるのも悪いから、そのまま泊ることにした。
結構無理矢理だった気がしないでもない。でも、昂平を宇佐木に取られたくなかったから、俺達は前以上に親密になる必要があった。俺たちっていうか、俺が、だけど。
結局何の進展もハプニングもなく、健全な夜を明かしたわけだけど事件は朝に起こった。やけにあったかくて寝ごこちが良かったからか、自分のベッドじゃないからか。俺は珍しくその日の朝、早起きをした。そしたら真正面に、昂平の顔があった。
『えっ……?』
俺は昂平の胸にしがみついていて、昂平はそんな俺を優しく包み込んでくれてるような体勢。こんな恰好で一晩を明かしたという信じられない事実が俺を襲いかかり、一瞬で頭に血が上って一気に目が覚めた。
俺は眠っている昂平の腕の中から逃げ出して、ベッドの下に落下した。その音で、昂平は目を覚ましたらしい。
『理音?もう起きたのか、珍しく早いな……』
『お、おはよう昂平!!あと五分で五時半だぞ!!』
『……なんで朝からそんなハイテンションなんだ?』
良かった、バレてないみたいだ。俺が昂平に抱きついて寝てたこと。きっと夜中に寝ぼけて抱きついて、昂平は俺を抱き枕だと思って抱きしめたんだろう。うん、そうに決まってる。
つーか昂平が先に起きてたらやばかったな。マジでやばかった。男同士で、まあ同じベッドで寝るのだけはまぁアリとしよう。でも、そっから抱き合って寝るってのは問題だ。明らかに、大問題。
きっと昂平が先に起きてたら、俺はドン引きされていただろう。幼馴染の男にひっついて寝るとか、痛いにもほどがある。しかも夢で昂平が、
『理音、好きだよ』
って俺に言ったんだ!ああああもう!!夢なのに夢なのに夢なのに!!
……夢、なのに。
それで俺は、あの日からマトモに昂平の顔が見れない。普通に話すことはできても、目を合わすことができなくなってしまった。きっと昂平も、そろそろ不審がってると思う。でも、うまい言い訳も思いつかない。
どうしたらいいんだろう。
どうしよう……。
「理音、今日部活は?」
「行けない。仕事入ってるから」
「そっか」
それでも、相変わらず昂平は俺と一緒に居てくれている。今もいつものポジションで弁当を広げて……でも、能天気におかずの交換はさすがにできなかった。俺は明らかにおかしい。なのに、昂平は気付かないフリをしてくれている。
……なんで?それを確かめる勇気すら、ない。
「あのさ、昂平」
「何だ?」
「……なんでもない」
「なんだ、言えって」
「言うこと忘れた」
「……んじゃ、思い出したら言えよ」
「うん」
口を開けば、こんな調子。信じられないことに、この状態が一週間も続いてるのだ。昂平への想いと妄想と罪悪感で、頭がおかしくなりそうだ。
そう言えば、あの日からまたあんまり眠れてない。忙しくて睡眠時間が少ないんじゃない。あきらかに悩みが原因の不眠症チックな症状だ。俺ってこんなに繊細だったのか。
「理音、どうした?気分悪いのか?」
相変わらず目敏いというか、どうしてお前はそんなに俺のことが分かるんだよ。
『理音、好きだよ……』
俺の妄想だって分かってるのに、あんなにはっきり囁くなんてズルイ。一人でドキドキして、俺ってホント痛い奴。
「保健室行こう。クマできてるし、また仕事が忙しいんだろう?午後の授業は寝てろよ」
確かに仕事は、ありがたいことにこの一週間毎日ちょこちょこと入っていた。でも、20時過ぎには終わって帰れてるから特別身体がキツイってことはない。とは言っても、ホントのことなんて絶対に言えない。
「……行く」
結局、俺は昂平に甘えて、立ち上がった。
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