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実は昨日、撮影のあとに同じモデル事務所の金子先輩の誕生パーティーに参加したんだ。なんでも金子先輩が気になってるモデルの女の子が俺のファンらしく、俺が来るならパーティーに参加するって言ったらしい。
(それって、むしろ俺は行っていいのか?)
と疑問に思ったけど、どーしてもと頭を下げられたので俺はダシになって参加した。金子先輩は優しくて嫌いじゃないから。ちょっと女癖悪いのが玉にキズだけど。
モデルの女は可愛かったけど、特に印象に残らない量産型だった。モデルっつーか、読モじゃねぇかって思った。途中二人で消えてたけど、金子先輩うまくいったのかな。
勿論未成年なので酒は飲んでない。そして家に帰ってからは課題をやってたから、寝たのは1時半くらいだ。──だから、今俺はすごく眠い……。
「おい猫田ー授業開始5分で寝るなー、まだ一限目だぞー」
「はーい」
「そういえば先生、例の雑誌見たぞ!お前なんて破廉恥なカッコしてんだ」
「そーゆー特集なんですよ……つか一応恥ずかしいから大きな声で言わないでください」
「恥ずかしさで目が覚めただろ?」
「あんまり」
教室にどっと笑いが起きた。俺はそこそこ人気モデルだけど、素がこんなだからあまり表立って女子に騒がれることはない。
RIONのキャラを日常でもすればこの上なくモテるんだろーけど(素でも普通にモテるけどな?)めんどくさいからしない。
それに俺は、カメラを向けられないとRIONにはなれないし……。
うつらうつらとした状態のまま午前の授業を終え、昼休みになった。急にスマホが震えだしたので見てみると、マネージャーの斎藤さんからの電話だった。
「はぁい。RIONですぅ」
『うわいきなり可愛いんだけど、どしたの?』
「とにかく眠いんです。それとどしたの、はこっちのセリフですよ。今日は撮影入ってないですよね?」
『それがさぁ!なんか千歳くんが風邪引いたらしくって代わりにRIONが来れないかって言われたんだよね。今日……ダメかな?』
おやおや、千歳くんのピンチか。
「久しぶりに部活参加しようと思ってたけど……いいですよ、行きます」
『ホントに!?ありがとー!じゃあ授業終わったら迎え行くから!』
「はいにゃーん」
通話を切った。千歳くんは一個年上だけど、同期のモデル仲間だ。俺とは全く違うタイプ(色黒細イケメン)で俺以上にバリバリ売り出し中の超人気モデル。色白で細い俺と対照的なせいか、コンビ撮影も多い。
千歳くん、風邪大丈夫かな?
「何にゃん、とか可愛いこと言ってるんだ?」
よく知ってる声に振り向くと、そこにはやっぱり昂平がいた。
「盗み聞きしてんじゃねーよ」
「聞かれたくないなら堂々と教室で電話するな」
そう言って、俺の隣の席の椅子を借りて座り、俺の机で弁当を広げて食べだした。今朝のことは全然気にしてないらしい。ま、気にされてたら俺が困るけど、俺の憎まれ口は今に始まったことじゃないしな。
俺も弁当を広げて、昂平と向きあう形で食べ始めた。
「あ、昂平の海老フライうまそう、交換して」
「なにと?」
「唐揚げやるよ」
「しょうがないな、ほら」
「あーん」
口を開けたら、昂平が俺の口に海老フライを食べさせてくれた。尻尾は食べないから、噛みきって残した。
「なんか餌付してるみたいだ」
「あー千恵さんの海老フライうめぇー」
昂平とはクラスが違うけど、お昼は一緒に食べている。登下校(仕事が無い日)、部活、昼休み。すべて昂平と一緒だ。別にどれも約束したわけじゃないけど。
だから他人が見たら異様に思うかもしれない、仲が良すぎるって。でも俺たちは別に仲が良すぎるってワケでもない。子どもの頃からずっと一緒にいるくせに、そこまでオープンな関係じゃないんだ。下ネタとかしないし。おかしな話だけど。
不思議には思っている。どうして昂平が俺と一緒に居てくれるのか。昂平も思っているかもしれない。どうして俺がいつも一緒に居るのかって。
俺は昂平が好きだからなんだけど、
昂平は、どうしてだろう――
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