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「ひぃっ!!」 「すげえ、セットの美術手ェ込んでるなぁ~」 「ふわわわぁぁ!!」 「ははっ、面白い顔のオバケだな~」 な、なんだよこの、俺とシンジの温度差!!シンジに先を歩いてもらってるけど、俺は入って5メートルも歩かない内に病院風の造りの内部にかなりビビりながら歩いていた。 こ、こ、恐い……!!マジで恐い!! なのにシンジはホラ―ハウスの作りやオバケ役の人のメイクに感心するばかり。どうしてそんなに冷静に見れるんだよ!! そう言えば先ほどからぱったりと、理音くんのけたたましい悲鳴が聞こえなくなってる。リタイアしたんだろうか、それとも気絶でもしたのか……それやばくねぇ? 「葵、」 「ぎゃあっ!!」 急にシンジに声をかけられて、思わず大きな悲鳴が洩れた。 「いや、俺にびびんなよぉ」 「むりむりむり!!いきなり話しかけんなっ!!」 心臓が早鐘のように打っている。いや、マジですっげービビったし!! 「ほら」 スッと、シンジから手を伸ばされた。 「さすがにこの中なら、手ぇ繋いでも怒らないだろ?」 「………」 「あーおーいー」 ……俺は、ズルイ。 さっき自分が思い切り手を振りほどいたからなんかバツが悪くて、どんなに恐くても自分から手を繋いで欲しいとは言い出せなかったんだ。シンジの方から手を伸ばしてくれるのを、実は密かに待ってた……。 「ごめん……」 謝りながら、俺はシンジの指に触れた。 「なんで謝るんだよ?」 シンジはそんな控えめな俺の指先を捕まえるようにギュッと手を握ってくれた。少し困ったように、笑いながら。 「なんか……色々と……」 「別に俺に謝るようなことはしてないよ?葵は」 優しくそう言われた俺は思わず胸がきゅうんとなって、シンジに繋がれた手をギュッと握り返した。メチャクチャかっこいい癖に、その上優しいとかずるすぎる……。 でも、きっとシンジは俺だけじゃなくてみんなに優しいんだろうなと思った。分かっていたことなのに、なんだろうこのモヤモヤは。 「まだ恐い?」 「そりゃあ、……」 手を繋いだからといってこのホラーハウスの恐さが薄れるわけじゃない。多少の安心感は生まれるけど。 「ォオォォオ……」 「んぎゃーッッ!!こっち来んなーッ!!」 血まみれの医者がありえない体勢で迫ってくるぅ!!なんか首がプランプランしてるんだけどアレって本当にメイクなのか!?マジで死んでない!?どうなってんの首のとこ!! 「葵、くっついてくれるのは嬉しいけどちょっと腕が痛い……」  ハッ! 俺は手を繋ぐどころか、シンジの右腕に思い切りしがみついていた。 「うわ、ごめ……「オォオォオ……」んぎゃあああああ!!!」 「ちょッ葵痛い痛いー! 腕が抜けるー!」 もーやだもーやだ!!俺もリタイヤしたいぃぃ!!! 「葵落ちつけって。あの人の本当の首は白衣の中だから。よく見てみ」 「よく見れるかーッッ!こわいぃぃ!!」 「じゃあもうちょっと早歩きしような、歩ける?」 「あ、あるけるぅ……」 やばい、なんか涙出てるし俺。情けないし、かっこわるい……こんなところでシンジに対してカッコ付けようなんて思ってないけどさぁ!! 「いやあここの美術さんは凄いなー、今年のハロウィン特集は俺もゾンビメイクしてもらおっかな。RIONとセットにしてさー」 「え、こ、今年はオオカミ男のコスプレしないの……?俺、何気に去年から楽しみにしてたんだけど……」 気を紛らわすように、今は関係ない会話を交わした。シンジと理音くんのレギュラーファッション誌の、去年のハロウィン特集ではシンジがオオカミ男で理音くんが魔女のコスプレをしていた。魔女っていうか……魔女っ子?  それがすごく好評で、来年もしようかなーなんて後日のインタビューで言ってるのを見たんだ。 「え、去年のコスプレ見てくれてたのか?」 「だっ……俺はアンタのファンだって最初に言ったじゃん!しかもわりとガチ目の……」 「そっかぁ~嬉しいなぁ」 シンジがとろけそうな声で言ったけど、薄暗いせいで表情はあまり見えなかった。その顔はちょっとだけ見たかったな……なんて。 それにしても、オバケ役がいなくてもぼろぼろのセットとか、血のついたメスとか、『手術中』って光ってる照明とか、もう全てが恐いんだけど俺は……。 「葵はRIONと俺、どっちの方がよりファンなの?」 「え?……服を参考にするのはRIONだけど、単体で見るならあんたのほうが好きかな。好きな服の系統が違うから、全然参考にはならないけど」 恐いから、いつものようにとりつくろう余裕が今の俺には全然なくって、素直にシンジの質問に早口で答えてしまう。コアラのように、シンジの腕にしがみついたまま。 嬉しそうにニヤニヤされてるけど、もうどうでもいい。ていうか温度差交換しろォ!!
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