ストリートピアノ

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ストリートピアノ

そこそこの中小地方都市の繁華街、それなりに賑わう一角にピアノが置いてある。ある篤志家が寄付をしてメンテナンスもするという条件で置いてもらってあるという話だ。割と人気で、弾いている人がいるようだ。 そんなちょっとハイレベルな香りのする地方都市の高校生たちの話。 小鳥遊高校の有里スミレ(あるさと)、赤沢ハナ、黒原ゆり(こくばる)は同級生で、よく一緒にいる。 黒原のうちは「黒バラ印のプロテイン」で有名なプロテイン屋さん。もともとは高野豆腐を代々作って商っていたんだけど、先代から「これからは低カロリー高蛋白質の時代だ!」ということで、豆乳飲料を作りだしたら大当たりして、今は大豆プロテインが主力商品。もちろん高野豆腐も作っているけど、そちらも新製品を色々と開発していて「豆腐プリンの素」「飲む高野豆腐」「3分でできる高野豆腐の卵とじ」「レンジでつくる大豆ミートの唐揚げ」なんていうのもある。おじいちゃんに続いてお父さんもなかなかの商売上手らしい。 赤沢は大地主で不動産屋のお家なんで、一度遊びに行ったら門から玄関が見えないくらい遠かった。本物のメイドもいるしビックリしたら、お母さんがコスプレ好きでお掃除や料理するのも好きだから、ああいう格好をしているって聞いて、「ええっと・・・すごいお母さんだね。」っていうしかなかった。もちろん赤沢も、割とすごいコスプレ風な服を着てくることが多いんだけど今のお気に入りは全円720度のスカートとフリルタップリの白いブラウスという正統派お嬢様なやつらしい。冬になるとファンタジーの騎士が着るようなマントコートを着てくるし。またそれが様になっている。背が高いしスタイルもいい。 学校の武道の授業には「一番動きにくい服を着ての鍛錬」っていうのがあるんだけど、赤沢はなんと長振袖を着て臨んだのがもう伝説となっている。くそ重たい金の刺しゅう入りという念の入れようで、先生と互角に長刀で応戦して最後には重い振袖の袖をぶん回して先生を殴り倒したからねー。普段はスカート(裾が長めで全円のシルエットの美しいやつ)と白いブラウス姿でおしとやかな感じなのに「動きにくさ満点」の赤沢の姿を見るために、体育館がえらいこっちゃだったのは言うまでもない。先生をぶっ飛ばした時なんか、みんなの雄たけびがすごくて耳が聞こえなくなりそうだった。 わたしは至って平凡なので、一番動きにくい服って言われて着てきたのがジーンズの上下っていう、もぉ定番中の定番だったし。赤沢みたいに派手にぶっ飛ばすのは無理だし。まあまあ合格点を貰えるくらいにはなんとかっていうくらいには頑張りました、エライぞ自分。終わるころには汗まみれで、余計に動きづらくなってるのがジーンズ。着替えは持ってきていたけど、脱ぐのが大変で。赤沢と黒原くらいじゃないかな、汗もかかずにさっさと着替えてたの。ちなみに、うちの両親は普通のサラリーマンとピアノの先生。 「また牛乳パンなのぉ?」 昼ご飯の後の軽い口直しに牛乳と牛乳パンを食べるのが、有里すみれの日課のようなものだった。もちろん今日も。それに茶々を入れてくるのが黒原。黒原も食後のプロテイン飲料を飲んでるけど、それは商売上というか家庭の事情でやむをえずっていうことらしい。 「いいじゃん、好きなんだから」 「いいけどさー。毎日だと飽きない?」 「飽きない」 「きっぱり言うねー。」 「だって今日のは「カメ丸屋」のやつだし、昨日は大杉パンのだしー。」 「牛乳パンは牛乳パンじゃんー。」 「あー、もぉわかってないなあ。これだからシロートは。」 「シロートですよー、どーせ。」 「パンも違うし、クリームも違うし。クリームの量やパンとのバランスというかさー。」 「ああ、はいはい。わかったわかった。早く食べて。遅れちゃうじゃんー」 赤沢と黒原にせかされて、仕方なく牛乳パンを口に押し込む。カメ丸屋のは噛み応えが好きなのに、味わってる暇もないや。ぶつぶつ。 学校が今日は昼まで。2時になったら帰れる日。しかも1日の映画の日なんていうことは滅多にない。映画の日は一日中安い料金で、好きなものがみられる。そこそこの中小都市なので小さいながらもシネコンがあるので、都会ほどではないものの話題作は見られる。 「今日は映画の安い日だもんねー。それに今話題のやつだし。」 「大人になったら、レイトショーいくんだけどなー。安いし。」 「でも女子が夜遅くに帰るのってヤバくない?」 「小鳥遊高校ですからー♪」 「武道必須だもんなー。」 「とにかく最低限、自分の身を守れ!そして自分より弱いやつを守れ!」 「わが校の麗しい鉄の掟。」 「わたし、どんくさいから武道苦手。今度補習なんだよねー。いいなあ、黒原も赤沢もトップで通過じゃんー。」 「小鳥遊高校は自由のために自己保身を学びますっ」 「ちげーよ、自己保身ちがーう。」 「まあまあ、そんな意味ジャンー。」 「もぉ、いいから早くいこうよ。映画の時間ーー」 女子高生らしくキャピキャピしつつ映画館に向かう三人。 映画館のあるのはストリートピアノのおいてあるビルの中。時々、弾いている人がいるけど、今日は昼間だし誰もいないだろうと思ったけど、意外と弾いている人がいた。 「あれって、斎藤じゃない?」 「へーー、ピアノ弾くんだ。斎藤。」 「もぉ、映画始まっちゃうから、はやくっっ。」 斎藤一、通称座頭市くん。白杖で武道の先生と渡り合った、こちらも伝説の同級生。もぉレジェンドばっかりの同級生たち。武道派と思ったらピアノも弾けるとは、ちょっとびっくりだ。 映画の時間があるので、そこはスルーして映画館のある階に行くエレベータに飛び乗ってポップコーンのにおいを嗅いだとたん、気分は映画館。 今日見るのは今話題の「ウサギは眠らない」。 ミステリコメディで、面白いって聞いてるし主役も二枚目半で好きなタイプだし。パンフあったら買いたい、そんなことで頭は一杯。
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