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犯人は
あの後、実行犯がネットで依頼をもらったという相手も捕まった。
イマドキの警察は、ちゃんとサイバー犯罪にも対応していてネットで匿名でやり取りしていても「一般人」相手なら、たいていは分かる。プロのネット犯罪組織になると、さすがに手こずるらしいが、だいたいこんな案件をやらかすのは「一般人」だ。プロは、もっとでかいことをやるらしい。
「そりゃあそーだよねー、人の髪の毛切るなんてプロっぽくない。」
相変わらず牛乳パンを片手に、もぐもぐしながら有里がうんうんと頷いてる。今日のは学校の近くのパン屋のやつ。有里に言わせると、お手軽お手頃な高校生向きの牛乳パンらしい。
「で、犯人って誰だったの?」
「それがさー、銀行員。」
「え、ひょっとして地元のあそこ?」
「そーなんだって。うち、取引してるじゃんー。」
黒原が顔をしかめながら言う。
「黒原のところだったら、銀行も喜んで貸すだろうなあ。」
「うちのじーちゃんは、無借金経営したいっていってたんだけど。あんまり借りてくれっていうから仕方なく地元のよしみでお付き合い程度ねー。」
「そっかー、黒原のうちの会社って地元愛があふれてるもんなー。」
「うんうん。地元の人間しか採用しないし。」
どんな優秀な学校を出ていても地元出身じゃないと就職できないという話。小鳥遊高校の先輩も何人か就職してる。
「で?」
「ま、そんなわけで警察にも色々とパイプがあって教えてくれたみたい。」
「そーいや、取り調べの時もケーキ付だったねー。黒原のおかげだったのか。」
赤沢のうちもそれなりに地元とパイプがあるはずだけど。
「まあそんなことはいいんだけど、聞いて驚けっっ。」
「おお、びっくりしたー。」
「はやい、まだ何も言ってない。」
「先に驚いたから、聞いても驚かないけどゴメンね。」
「なにそれ。イミフー。」
「いいから、早く話してよ。驚きの犯人。」
「あっ、そうそう。それなんだけどさー。例のコンビニの迷惑ジジイだったのっっ。」
「えっ、弁当にイチヤモンつけたジジイ?」
「どーだ、驚いたろうーーー。」
ふふんと鼻を高くする黒原。
「その迷惑オジサンが、斎藤の髪の毛を切れって??」
「なにそれ。弁当にイチヤモンは単なるクレーマーだけどさー。」
「髪の毛を切るのは確か傷害罪じゃなかったかな。」
「依頼しただけだと何だろう、ナントカ教唆ってやつ?」
「しらんけどー。」
「なんか病んでるよねー、そのジジイ。」
「とにかく若いやつが気に入らなくて、マウントが高じたってとこ?」
「まーそんなところじゃないの?五体満足で銀行に勤めてて、何が不満なんだかねー。」
「斎藤も言ってたじゃん、目が見えないやつはすっこんでろって言われたとか、弱者のくせにデカイ面してんじゃねぇとか言われるって。」
「えーと、なんか違うこと言ってた気がするけど。」
「まあいいじゃん、ニュアンスとしてはそんなことじゃん。」
あははは、と誤魔化す有里。
「うちの会社でちょっと鍛え直してやろうかって、銀行の頭取にいったらしいよ。じいちゃんが。」
「へーー。お宅の会社の人って腰低い人おおいよねー、みんな親切だしさ。販売店舗でタダでお茶飲ませてくれるし。」
「ま、それがうちの会社のポリシーだからねー。人は城、人を大事にしないとダメ。現場百回。」
「現場百回は違うと思う。ウサギのセリフ。」
「まあとにかくさー、お宅の社員教育がなってないからだろって、お付き合いで借りた500億を返すぞって言ったら、頭取が真っ青になったらしいよー。」
「ええー、なにそれ。金返すぞって脅かすっておかしくない?」
「ま、いろいろあんのよ。銀行も大人の事情っていうか。」
「ふーーん、大人ってわからんなー。」
「有里は牛乳パン食べてればヨシ。」
「うん、そーだそーだ。牛乳パンは正義っっ。」
「ま、悪い大人は成敗されたってことで。」
「一件落着ーー。あっ、先生きた。」
昼休みの終わりのチャイムがのんびりと響き渡る小鳥遊高校だった。
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