第1話

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第1話

最悪。今日はとことんついてない。朝から満員電車で痴漢に遭うわ、大学で男に告白されるわ、バイト先で知らないおっさんにナンパされるわ…訳わかんねぇ。 そして今、俺の目の前で今日最大の訳わかんねぇ事が起こっている。 「あのね、俺淫魔なんだけど…俺の赤ちゃん産んでくれないかな?」 あともう少しで自宅にたどり着くという所で、いきなり現れたその男は笑顔でそう言った。 深緑色の瞳、アッシュグレーの髪、整った顔立ち、チャームポイントの口元のホクロ……見た目だけなら文句なしのイケメンだ。でも言っている事は頭おかしいし、そもそもこいつ、人間じゃない。だって頭にツノ生えてんだもん。こんな夜中に黒い翼を生やした男が真っ黒いマント靡かせて宙に浮かんでるなんて普通じゃ有り得ない。…てかこいつ、今なんて言った?インマ?何それ秘境の部族かなんかか? 「あ、いきなりこんなこと言われても困っちゃうよね?ごめんごめん!俺今回が初仕事なんだけど…君のこと見つけて、なんかビビビッ!てきたんだよね〜。君ってばすっごく美味しそうな匂いするからさぁ…」 え、なに?匂いとか気色悪いんですけど…つーか、ビビビッ!って古くない?いやそもそも、初対面の男にいきなり子供作ってくれとか言われても全く意味分かんないしドン引きなんだけど…。 「……」 「あれ?もしかして驚いて声も出なくなっちゃった感じ?大丈夫だよ~怖くない怖くない。痛くしないから、ね?」 ……いや怖いわ!!めちゃめちゃ怖いわ!!!お前の存在自体が恐怖だわ!! 俺は思わず叫びそうになったが、ぐっと堪えた。ここで叫んで警察でも呼ばれたら厄介だし、かといってもしこの男に家まで付いて来られたりしたらもっと面倒臭いことになるだろう。とりあえずここは冷静になって…穏便に帰っていただこう。 「あの…俺男なんで、物理的に無理なんですけど」 「…………えええ?!君、女の子じゃないの??」 …この一言が、今日耐えに耐えた俺にとどめを刺した。 「ふざっけんな!!俺は女じゃねえ!!」 我慢の限界だった俺の叫び声は、静かな住宅街に響き渡った。
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