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――日本にこんな美しい場所があったんだ。
東京から飛行機で二時間半、さらに車で一時間。熱帯のような島の濃い森も、遠浅に広がる碧の珊瑚礁と白浜も、恭子にとって初めての光景だった。
ワゴン車が高校の玄関前で停まると、後部座席から飛び出す。開いたトランクに頭を突っこみ、竹刀と防具袋を引きずり出した。
「お待ちしておりました、護佐丸先生」
赤嶺と名乗った初老の教員と迎えの運転手、後から降りた母が話していた。恭子は防具袋を背負い、母に寄り添う。
「ええと……恭子さんは中学二年生。やるのは剣道だったね」
「父の学友が剣道部顧問と聞き、竹刀と防具を持って参りました」
「石川先生だな。迎えの生徒が来るはずだ。少し待っていてください」
東京から遠く離れた島、相手は高校生。わくわくする。
赤嶺は二人を応接室に連れて行った。入り口は重そうな木の扉で、表面に微細な彫りが散りばめられていた。
「卒業生の寄贈品でね、表面は屋久杉なんです」と赤嶺が自慢し、母は型通りの相槌を打った。赤嶺、運転手、母の順で部屋に入る。
「母さん。私、校内を見てていいかな」
恭子は、母の仕事である学術調査には興味がない。母は「生徒さんに迷惑をかけないようにね」と笑った。
◇
恭子は防具袋を背負ったまま、見知らぬ校舎の廊下を歩く。
背丈は百七十五センチをゆうに超え、クラスで抜群に高い。高校でも長身が目立つようで、すれ違う生徒が一瞬頭を上げ、振り返る。
職員室の前には生物部の研究らしい熱帯魚のパネルが並んでいた。それに見飽きると運動部活動の展示棚に視線を移す。剣道部のコーナーには優勝トロフィーや賞状がいくつも並んでいた。
「君は剣道をやるの?」
振り向くと、小柄な男子生徒が恭子の後ろにいた。人懐こい笑顔で、桔梗色の学園制服を着ている。
「はい……ここの剣道部、強いと聞いたから」
「それは県大会の優勝トロフィー。団体男子は五年連続のインターハイ、去年はベスト八だ」
「私、護佐丸恭子です。剣道部の迎えの方ですか?」
「いや、違うけど」
なんだ、人違いか。
「僕は真栄田賢雄。三年の帰宅部だ。稽古に参加するの?」
「はい」
「ひょっとして中学生?」
「いま二年です」
「高校での入部希望者かな」
「いえ……東京から来ました」
「強いの?」
「え?」
「剣道。強いの?」
「この夏は……個人戦の全国で優勝しました」
小声で答えた。高校の稽古に参加するには肩書も必要だから、学校には伝えてある。でも恭子は大会なんかで剣道の強さはわからないと信じている。
「中学剣道はこの時期、選抜強化合宿じゃなかったかな」
「辞退しました。母さんを守りたかった」
「守る? どういう意味?」
しまった、と思う。笑顔で畳みかけるような質問につい、本音をしゃべってしまった。
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