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「あの技をここまで封印するとはね。完敗だ」
面を脱いだ真栄田の顔は、最初の爽やかさが戻っていた。
「君の剣で迷いが切れた。勝負から逃げていたのは僕だった。もう一度、この部で剣道を学び直そうと思う」
「よし。勝負はここまで」
石川が全部員に集合をかけた。
「きょうは中学生の護佐丸君が、素晴らしい腕を見せてくれた。剣の道を究めるのに歳も男女も関係ない」
石川の声が大きくなる。
「勝負で負けるのは恥ずかしいことではない。相手を外見で判断し、見下し、侮る。それは卑しく、恥ずかしい行為だ。間違っていたと思う者は自分を恥じろ。それが剣の正道を歩む糧になる……」
石川の言葉が、恭子の胸にのしかかる。
私の剣は、正しかったのか。
最後に全員でかかり稽古をした。恭子が着替えを終えると、とげとげしかった空気は霧のように消えていて、知念ら部員全員が「ありがとうございました」と、中学生剣士に大きな一礼をした。
校舎に戻る廊下を上りながら、石川は笑顔を恭子に向ける。
「悪かったなあ。嫌な気持ちにさせただろう」
「いえ……別に」
「真栄田が道場に来た時は驚いたよ。そして君が知念を負かした時に思った。君なら真栄田の迷いを断てるんじゃないかってね」
石川は話す。真栄田の家は生活が苦しく、妹の学費を心配して国立大に志望変更し剣道をやめたこと。男子は秋季大会の連覇を逃し、非難は受験を理由に直前退部し部を混乱させた元主将に集中したこと。
最初に部員が見ていたのは、私じゃない。真栄田先輩が道場に来たことに驚いていたんだ。
「剣を捨てて家族を守る覚悟。だがきょうの試合で部員も納得したはずだ。あいつの剣への思いも、純粋な君の剣の強さも」
「あの……」
恭子は、立ち止まった。
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