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「君の胴は見切ったぞ。勝ちたければ本気の剣を打て」
凄まじい気迫が、小柄な体から弾けていた。真栄田の清新な双の視線を反らせない。反らした瞬間、私は負ける。
その時、どん、という地響きのような音が聞こえた。畳が上下に細かい刻みを打ち始める。
(地震?)
大きな揺れが二回、三回と道場を襲った。窓がバリバリと音を立てたが、真栄田は一瞬も視線を外さない。恭子も同じだ。
揺れは次第に弱まり、元の静寂へ戻っていく。
恭子の頭に、ふっと母が浮かんだ。
母は「海岸に行く」と言ってなかったか。
真栄田はその隙を見逃さなかった。竹刀が大きな音を立てて合わさり、互いの打撃を封じる。
再びつば競り合い。小さな体が闘志を固めて恭子をぐいぐいと押し返す。
たまらず恭子が後退する。体が離れた瞬間を狙う真栄田の小手、続く面の連打を紙一重でかわした。
「護佐丸君、逃げるな! 大事なものを守る、君の本気を見せろっ!」
真栄田の挑発に、恭子の集中と闘志が戻った。
振り下ろされた真栄田の剣を回すように外し、強く踏みこんだ反撃の面を放った。受けた真栄田の目が、恭子の小手が返されるのを映す。面打ちから防御を捨てて骨を断つ、連続技の右胴。攻め立てる剣筋も真栄田は完璧に受け、逆に無防備の面に躍りかかった。
「どおおおおおっ」
その時、袈裟に放った俊速の竹刀が上体を鮮やかに切り裂いた。
そして、美しいまでの残心。
「……胴ありっ」
白旗が上がる。残響が消えると双雄が動きを止めた道場に、再び無音の静寂が舞い降りた。
最後に放った胴は、真栄田の左。いわゆる逆胴。
恭子の完璧な一本勝ちだった。
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