魔王、『世界を語る』

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 魔王、転生128回目も勇者に敗北。 「また負けた。どこの世界に転生しても、何度も何度も、魔王の私が勇者に負ける」  魔王は嘆くばかり。 「ナ、ゼ、だ!?」 「実に弱いからでしょ」  魔王が勇者に敗北の物語を飽きるほど鑑賞してきた女神は軽々と真実を語った。  それに対して魔王は怒るどころか肩をガックリ落とした。 「もういいや。魔王転生なんかもうしなくていいや。今度は勇者に転生させて」  両手を合わせて情けなく女神に懇願する魔王であった。 「実に駄目。あなたの職務は魔王になって世界征服をたくらむこと。職務放棄は許されない」 「たくらむで終わってるじゃん!」 「そこにやっと気づいたかあははは」  笑う女神。 「どの転生先でも最強の力を手に入れる魔王のあなたが、一体どうして何度も勇者に負けるのか。その原因がわからなくちゃね、ずっとあなたの職務は世界征服をたくらむ魔王転生のまま」 「負ける原因があるのか? それを知れば私は勇者に勝てるのか?」 「勝った負けたの結果なんて、実に私にはどうでもいいところ。一番大事なところはね、今回の魔王の話は面白かったって私が思うところ。ああ最大のヒントを与えちゃったな」 「今までは一度も面白くなかったのか? 思い出したんだが、魔王が全ヒロインと勇者の母親と姉と初恋の人まで寝取り、勇者に屈辱と絶望を与えてやったこともあっただろ!? あれはいろんな意味で気持ちよかった」 「都合よく最期の部分だけ忘れないでよ。怒髪天のスーパー勇者にあやうく魂を原子ごと砕かれそうになったでしょ、そんな地獄のような結末」 「そうでした?」 「死んだり転生したりすると、その都度生前の記憶の一部分がランダムに欠けるんだけど、敗北の転生の繰り返しということもあって、痛い目にあったところは都合よく忘れる(笑)ことのほうが多いようね」 「思い出した。じゃあニセ勇者となって、どこぞの王国の救世主となったところで闇落ち勇者に変身。国の1つを乗っ取って財政破綻させてやろうとしたら、なんと! そこの王子に好きだと告られて思いとどまったロマンスは?」 「あれは王子からの告白までは良かった。でも、魔王は王子から逃げたじゃん。そして王子の魔王への愛が憎しみに変わって、魔王は王子に討たれた。そこで終わり。オチに意味なし。あそこで王子の愛を受け入れて激しいBL展開に突入してたら、ふっ、ふーっ!」 「ぐぬぬ……」  低く唸る魔王。  女神の脇に控えていた天使は呆れた。 「はあ」 「ほらほら。天使ちゃんも退屈。じゃあ、次の魔王転生しましょう」 「待て。一度くらいは、勇者でなくてもいい、勇者の仲間として転生させてくれ。またここに戻ってきたとき覚えていないかもしれないが、一度勇者のことを良く知りたい」 「うーん。勇者側は無理かな。でも、魔王はなぜ勇者に負けるのかって問いのヒントを教えてくれる人物に会わせてあげよう。それも今回だけよ。そして、それは短い人生になるけど、それでもいい?」 「もちのろんでございます」 「じゃ、この世界の、この時代に行ってこーい」 「待て。その世界がどうなっているのか、事前情報くらい少し与えてくれ」 「そんな記憶持ったままだと面白くないでしょ。今回ばかりは死んだときまでの記憶は全部持ち帰れるようにしてあげる」 「あーれー」  そして、どっかの国の天文期という時に転生した魔王であった。
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