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 うちの高校のほとんど唯一の欠点が校舎から校門までの距離が長いことだった。  広大な敷地を活用したグラウンドが校舎の眼下に広がり、門はその果てにあるのだ。運動部員にとっては最高の環境だろうが、帰宅部に魂を注ぐ僕には不要でしかない。  グラウンドを囲むフェンス越しに僕の家へと続く歩道が見える。  ここに帰宅部オリジナルの校門を作りたい、と僕はもう半年思い続けている。 「あ、日坂くーん」 「おー会川」  フェンスの向こう側を逆方向に歩いてくる会川が笑顔で手を上げた。  パッと明かりが灯るような笑みだ。彼女は僕のクラスメイトで、誰にも分け隔てなく気さくで優しい。  僕も応えるように右手を上げた。 「帰るの早いな」 「帰宅部に魂注いでるからね」 「負けたわ。部長はお前に任せる」 「ん、何の話?」  会川は首を傾げるが、瞬く間に僕たちの距離は無くなり「まあいいや。じゃーね」とすれ違いながら彼女は手を振った。「ああ、じゃあな」と僕も返す。  二歩か三歩ほど進んだところで、背後から重い音が聞こえた。  部活が始まる前の静けさにその音はよく響き、僕は思わず振り返る。 「……会川?」  会川明音が倒れていた。  先程まで笑顔を見せていた彼女の全身が力なく横たわっている。  目の前の光景が理解できず立ち尽くしていると、彼女の口から呻き声が漏れた。我に返った僕は眼前のフェンスを飛びかかるように掴む。  がしゃがしゃと不細工な音を立てながら、時折足を滑らせつつも僕はフェンスを乗り越えて彼女の元へ駆け寄った。 「おい会川!」  名前を呼ぶが反応はない。  倒れた拍子に切れたのか、彼女の額からは血が流れ出していた。それを見て僕は驚愕する。  まるで血を水で薄めたかのような桜色をしていたからだ。  僕は慌ててスマホを取り出し、人生で初めて救急車を呼んだ。
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