墜落のリリス

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上だとか、下だとか、どうして決められなきゃいけないの。 どうして、私はあなたに従わなきゃいけないの。 逃げれば逃げるほど追いかけて、あれだけ支配されたくないっていったのに相も変わらずあなたは支配をしようとする。 ─ああ、もう、つかれた。 真っ黒な月の裏側でため息をついていたら悪魔に誘われるがままに、吐息交じりに悪魔と身体を重ね、悪魔との子を身篭った。 悪魔との子を孕んだ私は、妻でもなく少女でもなく、女だと天使たちに囁かれ、あなたは怒り狂い神に申告した。 神は、私を“裏切り者”として楽園から追放し、のちにリリスと呼ばれるようになった。 黒い月の裏側で悪魔と子との家庭をひっそり営む私は、きっと、母親としては認められないのだろう。 それでもかまわない。 だって、悪魔は、彼は、自由に生きる私をはじめて認めてくれたから。 上だとか下だとか、そうした些細なことにこだわらないおおらかで器の大きな男性。 いつも押し付け縛り付けようとしたあなたとは、大違い。 あなたは、いつも誰とどこにいるから聞いたり一方的に贈り物をしてきたり気に入らないことがあればやめるよう強くいいにきたり態度を改めるよう強要してきたり、ときにはあなた好みの女性になるよういってきたり。 あなたといると、いつも息が詰まりそうだったの。 そんな中、彼があらわれて彼は私のやることなすことすべてを受け入れて自由にのびのびさせてくれた。 彼は、自由に空を飛んでいるきみが好きだよ、といってくれた。 彼と一緒なら、墜落してもいい、とそのときに強く感じた。 楽園から追放され、翼もはぎ取られたが今とても心地よい。 それもこれも、自由なこころで愛する人たちと過ごしているから。 人は、私を悪魔に身を売った娼婦と蔑むが、もうそんな雑音はどうでもいい。 彼に想いを寄せる女性たちからも、私の好きな人を取った悪女だと罵られたが、今はもうどうだっていい。 自由に生きる私への嫉妬と羨望、どれだけ想いを寄せる人に尽しても返ってこなかったのに突然奪われてしまったことへの行き場のない想いを、私にぶつけているのでしょう。 昔は、いちいちそうしたものに気を病んでいたけど今は、もう、どうでもいい。 風の噂で知ったけれど、かつての愛した人は、今は優しく従順な女性といるようだ。 いかにも、あなたらしい。 真っ黒な月の裏側で悪女と罵られながら、自由なこころで生きていく。 翼は失ったけど、どこまでも飛んでいける。 ─だって、私はもう… もし、黒い羽が落ちていたらもしかしたら私が空を飛んでいた、かもしれない。
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