危険な香りの御曹司

何故？

『着いたぞ』と言われた場所は山……？

「此処は？」

「六甲山だ」

「初めて来ました」

「取り敢えず降りろ」

神戸に住んではいるけど、六甲山に来るのは初めて。

だから思う。

何故六甲山に来たのかと。

不思議に思いながら、車から降りた。

私を待つ事なくさっさと歩いて行くから仕方なくついて行くと見えた景色に言葉を失う。

「1000万ドルの夜景だ」

何故か涙が頬を伝う。

感動したのかも知れない。

立ち止まった私の側に来た人の手が頬に触れた。

そして親指で涙を拭ってくれている。

「井の中の蛙大海を知らず」

心地良いバリトンボイス。

泰然とした冬山の様な人だとこの時思った。

「たまに連れて来てやろう」

静かで動じず春を待っている冬の山の様な人だとも思えた。