無職になりました

5/8
前へ
/290ページ
次へ
クルーズ船が出航して行く。 まだ1度も乗った事がない。 静かになりつつ海に向かって『馬鹿野郎ー!』と叫ぶと溢れ出した涙。 悲しい訳じゃない。 辛いんじゃない。 ただ、ただ、悔しいんだ。 真面目に働いていた私がやってないと言っても、信じてもらえかった事が悔しいんだ。 「泣いてるのか?」 そんな声が聞こえたけど、私にではないと思った。 暫く海を見てから涙を拭き、踵を返すと知らない男の人が私を見ている事に気づいた。 日本人には珍しい深海の様な髪の色に、冷たく感じる瞳も深海を思わせる。 切れ長の目に、整った鼻筋。 キラキラと光るイルミネーションに照らされたその人を素直に綺麗だと思った。 でも、私には無縁の人。 その人の側を通り、神戸駅へと向かう。 私に言われた言葉じゃなかったけど、誰かに見られていたと思うと恥ずかしくなり、速足になる。
/290ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6327人が本棚に入れています
本棚に追加