狐狸クション

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「ちぃ・・す。ピザ屋で・・・す。」 俺は言われた通り応接間に足を踏み入れた。 「す・・・げ。」 一見して高値だとわかる絵画が ずらりと部屋を圧している。 「あ・・」 一目でわかった。 一族の絵だ。 俺の翠色の目は特殊な顔料を見分けられる。 代々受け継がれてきた不思議な能力は 画家を生業としていた先祖が覚醒した能力だと聞き継がれてきた。 祖先が残した絵を全て見たい。 偶然、ピザの配達で行ったお屋敷にその絵はあった。 俺は本物の一族の絵の前でどれくらい立っていたのだろう。 気がつくと、家の主人と思われる人が隣に立っていた。 「この絵が気になるのか?」 「・・・はい。」 俺は絵に向かって言った。 「この絵は・・僕の絵です。」 「どういう事だ?」 「僕たち一族の目は特殊な顔料を見分けられます。」 キャップの下から俺の翠色の瞳が主人を見つめた。 「この絵は一族の顔料が使われています。  ここと・・ここ・・・です。」 俺は指を差して説明した。 「ほお。」 主人は楽しそうに感嘆の声を上げた。 信じてないのだろう。 俺は続けて言った。 「この色は市販の絵の具では出ない色です。」 「ほお。」 再び主人は感嘆の声を上げた。 「君のその目は本物のようだね。  確かにこの色は市販の絵の具ではない。」 「ご主人、これは一族が描いた絵です。」 俺は真っ直ぐ主人を見つめた。 主人は数回頷くと、ピザの代金を払った。 俺は、、見つけた一族の絵を置いて帰りたくなかった。 帰ろうとしない俺に 「どうした? まだ何か?」 傍に呼んだ息子にピザを渡しながら言った。 「この絵は父さんがおじいさんと雪山に行った時の絵です。  父さんがよく話してくれました。  ここ・・これはあの日の朝焼けを表しています。」 モノクロームな静かな絵に僅かに差した暖色は よく見ないとわからない繊細なタッチで色味を添えていた。 「ほおう。」 主人は人差し指で顎髭の感触を確かめながら目を細めている。 「僕はこの絵が欲しいです。」 小さな声で呟くように言ってから もう一度はっきり言った。 「この絵を僕に返してください。」 睨むでもなく、媚びるでもなく ただ、真っ直ぐ見つめた翠色の目に光が流れる。 と、主人は声を上げて笑った。 「返す?」
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