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それにあんな奇跡的な事を未だに自分がやったなんて信じる事が出来なかった。
何故ならあの時の記憶が全くないのだ……。
目覚めた時にはシルバーウルフの一匹は既に事切れて居て、シルビアがまるで飼い犬の様に大人しく伏せをしていた。僕はてっきり父様達が力を合わせて倒したのだと思った。
彼女が脳の中に直接語りかけて来た時はびっくりした。けれどあの時はまだ意識が朦朧としていたから、その衝撃は少なく済んだのだけれど。
しかし、しっかりと意識が回復すると、父様に逆に質問をされたのだ。話を聴いて信じられなかった。この僕が父様もメルさんの命を救ったのだから。あの戦闘中、父様は危うく腕を引きちぎられそうだったという、生涯片腕となる事態は避ける事ができたが、残念なことに腕の動脈を切られた為、血が止まらず死を間近に感じていたそうだ。
瞳を閉じてシルバーウルフの追撃を覚悟していたのだが、それは不思議と訪れず、逆に泣き叫ぶ猛獣の声が森林に木霊した。
そして何より親父と呼ぶ様な声が聞こえ、それが余りにも息子の声と一致している為、躊躇いながらも声のする方へ目を向けると、顔は息子だが5才とは思えない筋骨隆々の幼児が、その個体を赤子を捻る様に蹴飛ばしていたと言うのだ。
当然そんな馬鹿げた話を信じられるわけもなく、町でもそうだったが、色々サプライズなことをされたのもあり、今度は皆で僕に誕生日のサプライズイベントをしてくれたとさえ考えた。
でも、それは違っていて、本当に僕一人で記憶が飛んでいる間にシルバーウルフを完膚なきまでに叩いて居たのだと教えられた。
改めて真剣な眼差しで語られたので、もう自分が普通の人間では無い事を実感するほかなかった。いや、本当は自分でも気付いて居たのかもしれない。何故なら、僕にだけ元勇者ルーザーマケルシカナイトさんが見えるのだ。
今も語ることは無いが、彼は僕の目の前に立っていた。
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