みぃつけた。

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「もう、いいかぁい?」 「まぁだだよ」  そう答えて、俺は隠れる場所を探して走り出した。  やれやれ、かくれんぼなんて息子が幼稚園の時以来だな。  木の影に隠れようかと一瞬思ったが、俺の腹回りもあの頃と比べてずいぶんとふくよかになっている。    確実にはみ出るな……。  隠れ場所を探していると、ベンチの影にしゃがみこんでいる茶色の髪の女子高生と目が合った。  俺に気づくと、女子高生は自分の口に人差し指を当て「声を出すな」のジェスチャーをした。  まだまだだな。    そんなところに隠れても、すぐに見つかるぞ?  さて、俺は……。  周囲を見回すと、段ボールが山積みになっているのが目に入った。  よし、あそこに隠れよう。  段ボールを組み合わせて隙間を作ると、俺はそこに座り込んだ。    自らも段ボールになりきるべく、比較的きれいな段ボールを頭からかぶった。  これなら、そう簡単には見つからないだろう。 「みぃつけた」  にんまりとしていると、遠くから鬼の声がした。  誰か見つかったようだ。 「助け……、助けて……」  若い男が、怯えたような声を出している。  たかが、かくれんぼにおおげさだな。  上司に理不尽に怒鳴られた時の方が、よっぽど……。  あ、れ……?  会社はどうしたんだ、俺……?  今日は朝から会議があったはずなのに。  なんで、かくれんぼなんかしているんだ? 「早く、会社に行かないと……」  そう呟いた瞬間、がさがさと段ボールに触れているらしき音がした。  思わず振り向いたが、俺は頭から段ボールをかぶったままだった。  見えたのは、なんだか毛むくじゃらな六本の足だけだった。 「みぃつけた」        
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