2 ある男の後悔

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「……っ、ぅ」  胎内で鼓動を聞きながら、次の夢へと移り行く最中、水の中で溺れているような息苦しさを覚えた。いつも水の中にいる感覚はあるのだが、ここまで苦しくなったことはこれまでなかった。  俺はなんとか水面に上がろうと藻掻き続けたが、なかなかそこまで行きつけず、ずいぶんと長いこと手足をばたつかせていたように思う。そんな中でも、ようやく薄っすらと光が差し始め、それに縋りつくようにして強引に両目をこじ開けた。 「……、……っ」  恐らくはまた勝間の体のはずだが、なんだか様子がおかしい。中にいる俺もだが、勝間は一層苦し気に呼吸を乱していて、目を開いているのに目の前が霞がかっていてよく見えない。  勝間は目を擦ろうとしたが、両手が弛緩していて上手く動かせないようだ。そこで視線だけ目いっぱい動かせば、車の運転席にいて、どうやら事故に遭ってしまったようだと分かる。勝間自身も大怪我を負っているようだが、隣に人の気配を感じて僅かに首を動かすと、勝間以上の重傷者がいた。  それは、前回の夢に出てきたあの女性だった。  俺が状況を掴めずに混乱しているうちにも、勝間はその女性の状態と、女性の腹部を確かめるために視線を動かしていく。女性の腹部は普通ではありえないほど膨らんでいる。  妊娠、している。 「……、り……」  勝間の意識が薄れていく。勝間は自分が死にゆく中でも、誰かに訴えかけるように、あるいは、自分自身に刻み付けるように、その名前を呟いた。 「りょう、か……」  勝間と俺の意識が切り離されつつあったが、俺にはなぜか、それが謝罪のように聞こえていた。
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