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プロローグ(春夏冬 相馬)
子供の頃、大人という者はもっと、しっかりしているモノだと思っていた。
それでいて何の根拠もなく、年齢が二十歳を超えれば、誰もがそういう風になれると、そんなあまいことを信じていたのだ。
別に誰かがそう言ったわけでも、そういうことがテレビやラジオでやっていたわけでもないのに......
大人は誰もが仕事に就いて、お金を稼いで、自分の力で、一人で立派に生きている者だと......
勝手にそう思っていた。
けれど実際に、自分がその『大人』になったとき、それはあまりにも呆気なくて、自覚が無くて、なんとなくヌルッと、それになっていた様な気がする。
でももしかしたらそうなると、『大人になった』というよりも、『子供のままではいられなかった』と......
そういう風に言った方が、正しかったのかもしれない。
そしてそうなると、今の自分の姿が、子供の頃に思い描いていた姿とはあまりにもかけ離れていることに、なんとも言えない焦燥感を感じてしまう。
いや、違うか......
『なんとも言えない』というよりも、『なんと言葉にすればいいのかわからない』っていう、ただ自分の中に語彙が足りていないだけで......
そうなると、どれだけ自分が幼い生き物なのかということを、思い知らされる。
思い知らされて、打ちのめされて、そうやって日常が過ぎていく。
そしてそうやって過ぎた日常が、後から自分にのしかかる。
そしてのしかかった日常は、耳元で僕に囁くのだ。
僕の心の内を、醜い部分まで、全部全部、知っている癖に......
この世界の誰よりも、もしかしたら僕自身よりも、それを理解している癖に......
わざとらしく微笑を含めた声で、それは僕に問い掛ける。
~どうしてあのとき、なにもしなかったの?~
そんな風に、僕自身の醜い幼さなさに、それは容赦なく問い掛けるのだ。
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