一日だけでいいから……

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 おじいさんは少しためらってから、佳奈に尋ねた。 「……最後に一つ、聞いていいかい?」  佳奈は頷いた。 「君にはこの花畑がなんの花が咲いているように見える?」  何故そんな事を聞かれるのか分からなかったが、佳奈は見たままに話した。季節もバラバラで共通点のなさそうな植物の事を。  するとおじいさんは何故か嬉しそうに笑った。 「そうかい。それはよかった。……大事にするんだよ」  おじいさんがそう言うと、佳奈の意識は途切れた。 「思い出した?」  明日香の声に、佳奈は今学校にいたことを気づかされる。明日香はいつ取り出したのか分からない携帯をしまいながら言った。 「私、夢で言われたの。おじいさんに夕方になる頃に、佳奈に真実を伝えてくれって。そんなことあるわけないと思って、朝、学校に来たら、この間……冷たくなっていたはずの佳奈がいて。……でもあんな態度は取っちゃいけなかった。ごめん」  佳奈は休み時間に星歌に言われた言葉を思い返した。きっと星歌は『でも怒っているっていうより混乱とか戸惑ってる感じ?』と言おうとしたのかもしれない。  その時、ドアが軽い音を立てて開いた。 「あ。あすいた。ねえ、佳奈のことでさ……」  教室に入ってきたのは星歌だった。佳奈と目が合い、立ち止まる。  おじいさんの言っていたことは本当だったのだ。星歌は佳奈がもういない事を思い出した。  明日香が佳奈の方を見る。 「急に連絡したけど、星歌も間に合ってよかった」  佳奈は二人の視線を感じ、自分の手を見た。しかし佳奈の目に映ったのは透けた手のひらと、床に並ぶ木の板だった。
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