一日だけでいいから……

2/4
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
 きまずい。とても、きまずい。  私はほうきで床を掃きながら、あすを見つめる。しかし、あすは何も気づかず黒板を消していた。  掃除は名簿で区切られていて、私の名字の咲倉とあすの九条で同じ掃除場所だった。しかし、会話がない。いつもなら、話してないで手を動かせと言われるくらいずっと話しているのだが、今日は一言もない。これはちゃんと理由を聞こう。  掃除が終わって他の人が帰って、私は決心した。 「あす。私、何かしちゃったかな」  教室を出ようとしていたあすの足が止まる。背中しか見えないから、あすがどんな表情(かお)をしているか分からない。 「……何もしてないよ」 「嘘だ。じゃあどうして今日一日目を合わせてくれないの。他の人とは話すのに、私とは話してくれないの。私はあすのこと好きだけど……長い間一緒にいて、嫌なところも見てきて……私のこと嫌いになった?」  そんなことあるわけないじゃないと、あすが振り返る。 「私だってかなのこと大好きだよ。でも、混乱しちゃって。かな、本当に何も覚えてないの?せいかも覚えてないみたいだし」  あすは私の方をまっすぐ見た。夕日に照らされて、あすがオレンジ色に染まる。 「私の勘違いだったらごめんね。……かな、病気治って退院出来たの?」  あすの瞳を見ると頭の中で何かがピキピキと鳴ってひびが入る。 「この間かなは……私が握ったかなの手は冷たくなってたのにって」  パキン、と頭の中で音がした。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!