一日だけでいいから……

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 ──気まずい。  佳奈はほうきで床を掃きながら、明日香を見つめる。しかし、明日香は何も気づかず黒板を消していた。  掃除は名簿で区切られており、佳奈と明日香は同じ掃除場所。今月は彼女たちの教室だった。  いつもなら、話してないで手を動かせと言われるくらいずっと話している二人なのだが、今日は一言も会話がない。  佳奈は直接本人に話を聞くことを決意した。  掃除が終わって他の人が帰った時、佳奈は明日香に尋ねた。 「あす。私、何かしちゃったかな」  教室を出ようとしていた明日香の足が止まった。佳奈からは明日香の背中しか見えていないため、明日香がどんな表情(かお)をしているか分からなかった。 「……何もしてないよ」 「嘘だ。じゃあどうして今日一日、目を合わせてくれないの? 他の人とは話すのに、私とは話してくれないの? 私はあすのこと好きだけど……長い間一緒にいて、嫌なところも見てきて……私のこと嫌いになった?」  明日香は「そんなことあるわけないじゃない」と、振り返る。 「私だって佳奈のこと大好きだよ。でも、混乱しちゃって。佳奈、本当に何も覚えてないの? 星歌も覚えてないみたいだし」  明日香は佳奈の方をまっすぐ見た。夕日に照らされて、教室がオレンジ色に染まる。 本能が耳を塞ごうとする。──続きを、聞きたくない。 「私の勘違いだったらごめんね。……佳奈、病気治って退院出来たの?」  明日香の瞳を見た佳奈の頭の中で何かがピキッと鳴り、ひびが入る。 「この間佳奈は……私たちが握った佳奈の手は冷たくなってたのにって」  ──パキン、と乾いた音が頭の中で鳴った。
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