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「遭遇」
さっき、ベランダで煙草吸っていたら、誰もいないはずなのに、背後で女の子が咳払いする声が聞こえました。
どこを探しても誰もいない。
飼っている犬だろうか。
いや、犬は別の部屋にいた。
何より、犬は咳払いなどしない。
でももう、犬ってことに、しておこう。
昔住んでいた部屋に、シャドーマンが出たことがある。
調べてみたら、正しくはシャドーピープルと呼ぶらしいと知った。
東京で、男性と共に暮らしてたマンションの部屋だった。。
最初にシャドーピープルを目撃したのは彼で、お風呂で体を洗っていたら、ガチャっとドアを開けて何か黒い影のような、人間の形をした物体が外へ出て行ったのだと言う。
しかし、彼はちっともそのことを気にしておらず、体を洗い、髪もきちんと洗い、普通にお風呂から上がって来たのだ。
そして、ふと思い出したように、二人でベッドに入り、寝ようと言う頃になってから、私に「さっきシャドーマン、見たわ」などといきなり告げてきたのだ。
私は何のことかわからず、はい?と、間のぬけた返事を返した。
「うた子が見たことがないのならば、気にしなくて良いと思う。UMAみたいなやつだよ、ただの」なんて言うと、彼はすぐに目を閉じ、夢の世界へと意識を沈ませる。
シャドーマン、か。
私は軽くスマホで検索をかけ、どのような存在なのかを調べ、概ね理解する。
幽霊とは違うようだし、怖いものでもないようだ、と判断し、自も眠ることにした。
しかし、その後。
私もその、シャドーピープルとやらに『遭遇』することとなった。
怖くはないと思っていたけれど、緊張した。
正体のはっきりしないものは、やはり少しばかり不気味だと感じた。
私が部屋に、一人でいる時だった。
キッチンで、料理をしている最中だった。
簡単なものしか作れなかったけれど、彼が帰宅したら夕飯に、とカレーだかシチューだかを調理していたような記憶がある。
彼がシャドーピープルを見たのは、風呂場だった。
風呂場を出ると洗面所があり、ドアを開けたところがキッチンになっていた。
ガチャ、と、背後で音がした。
振り返ると、お風呂に通じる洗面所へのドアが半分だけ開いていて、中に入って行く黒い影みたいなものを見かけてしまう。
ああ、これが彼の言っていた、シャドーピープルか。
嫌だなあ、なんか、不吉な感じがしてしまう。
UMAだとは調べたページに記してあったけれど、私は気を紛らわせることにした。
中学生の時にバリバリの中2病だったので、般若心経を丸暗記していたのだ。
それが、もしかしたら役に立つかもしれない、とばかりに、キッチンにいる間、ずっと般若心経を大声で唱えていた。
結局、この部屋に住む私たち二人には、体に異変などもなく、焦げたような匂いとやらも感じることもなかった。
私たちはヘビースモーカーだったので、部屋はいつも煙草くさかったし、匂いはもしかしたら多少ありはしたのかもしれないが、ヤニカスには効かなかった。
なんだったのだろう、あれは。
ついでなので、料理が終わると、洗面所とお風呂でも、とりあえずは般若心経を唱えておいた。
対策はそのくらいしか思い付かず、他には何もしなかったのだけれど、シャドーピープルを見たのはその一度きりとなった。
般若心経、ちょっとは効いたのだろうか。
それか、たまたまもうこの部屋からは出ていくところだったのかもしれない。
霊や、神を信じるか、みたいな話。
私はどちらでも、あり得るし、と言う程度で、気持ち自体は強くはない。
霊感は0に限りなく近いと思っているので、あれはきっと、本当にシャドーピープルだったのであろう。
ただ、自分はなんだかんだ悪運が強くて、ラッキーだよなあ、とは思うことがあるので、神のような何かはいらっしゃるのではなかろうか、と思ってはいる。
そして、ありがたいなあ、と、感謝の気持ちを時に抱く。
どうなのだろう。
いるのか、いないのか。
あ、でも。
今の部屋でも、あるにはある。
見てはいないのだけれど。
ガチャ、と、ドアを開ける音を聞くことがある。
しかし、誰もいるわけのない時間帯であり、玄関の鍵は閉められている。
そのようなことが、数回ほどあった。
幻聴かもしれない。
そんな感じの、とりとめもない話だ。
何故かシャドーピープルの話を思い出したので、書いてみた。
誰かに話すと、消える、なんて言葉を少しばかり期待しつつ。
私は、できればあまり、怪異には『遭遇』したくないのだ。
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