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「今日は忙しかったなあ」
六月ももうすぐ終わりのある夜。リビングで師匠は満足そうに言った。なんだか機嫌がいい。窓からは涼しい風が入ってくる。ソファに並んで座って、店の残り物で二人で遅い夜メシ。
今、テーブルの下に置いてある通販の小さな箱。これも師匠の機嫌がいい原因だと思う。
「その箱、なんなんスか?」
訊いた後、俺は大きなあくびをした。
「シュウ君のファーストアルバムが出たんだ」
シュウさんの活躍がうれしいんだろう。師匠は少しうきうきしていた。チリッと心の端が焦げるような感覚を無視して、俺は言う。
「シュウさんのアルバム、俺も聴きたい。一緒に聴きましょ」
うれしそうにうなずく師匠。いそいそと、でも丁寧に箱からCDを取り出す。
CDジャケットは、シュウさんの正面から撮った顔のドアップだった。帯に「ファーストツアー決定!」と書かれているのが目に入る。オーサカにも来るみたいだ。
パソコンにCDをセットし、再生させる。ブックレットを開く師匠にぴったりひっついて、俺もブックレットをのぞきこんだ。
「さすが、参加ミュージシャンもいつもキヨヒトさんとやってるメンバーだなあ」
感心したように言う師匠の声に、きれいなピアノの音が重なる。
「一曲目は、キヨヒトさんとデュエットした曲のソロバージョンだね」
師匠が好きなタダキヨヒトは、そういうのにあんま興味がない俺でも知ってる曲があるレベルで、確かデビューして二十年以上のベテランだけど、ずっと一人でやってきた。それがここに来て無名の新人と組んで、ソロデビューをプロデュースしたと話題になってたのは、俺も知ってる。俺達が潜入してた店の常連で、シュウさんを子供みたいにかわいがっているのも見た。
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