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 透明のケースに入れた、両面一枚だけのメニューを見る。カルボナーラを食べることは決めていた。あとはマルゲリータのピザ、イカのトマトソース炒め、それにティラミス。俺が師匠と別れる直前、最後に作ってもらおうとしたメニューだ。 「お決まりですか? これがラストオーダーになりますが」  俺に気づくはずもない師匠がゆっくり近づいてきて、水の入ったグラスをテーブルに置きながら言った。 「え~と、カルボナーラとこのピザと、ティラミス下さい。あとなにかワイン飲みたいんスけど、なにがいいっスかね?」  メニューになかったイカ以外を早口に頼んだ後で、水を飲む。俺は妙に緊張していた。声で気づかれるかと思ったけど、師匠にそんな気配はない。 「そうですね、どれでもいいとは思いますけど、この白ワインとかいいかも知れないですね」  長い指でメニューを指さす声がざらついている。俺と一緒にいた時だって、こんなどこか投げやりな感じもする話し方はしてなかった。ますます、心が冷える。 「じゃあ、それでお願いします」  かしこまりました、と言って厨房の方に行く背中を目で追う。細い腰。簡単に折れそうな長い脚。ワインと小さな皿を載せたトレイを手に戻ってくるのを、俺はじっと見ていた。 「こちらはワインについているおつまみです」  やっぱり少しざらっとして冷たい声。師匠がテーブルに置いた小皿には、俺が好きなイカのトマトソース炒めが入っていた。  俺に気づいたのかと、思わず師匠を見上げる。 「お嫌いですか?」  当然、そんなはずはなくて。俺は単なる偶然にドギマギしながら、首を横に振った。ごゆっくり、と言って厨房に戻る師匠は、やっぱり笑わない。いつでも人には笑顔で接する、そんな人だったはずなのに。  厨房で俺が頼んだ料理を作り始めた師匠を見つめる。カウンター席のカップルは、まだ帰る気配がない。さっさと帰って欲しい。師匠を見ていたいのに、邪魔でしかねえ。  
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