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「おかわりあるよ」
食ってる俺を見る瞳が、うれしそうに緩む。この、自分の料理をうまそうに食ってもらえればそれでいい、みたいな表情も、俺をたまらなくさせる。
「なに? どうしたの?」
おかわりが欲しくて器を差し出しながら師匠の顔をうかがうと、怪訝そうに首をかしげる。
「俺、うれしいっス。かっこよく働く師匠が見れるようになって。前より笑ってくれるようにもなったし」
師匠は照れたような顔で黙って立ち上がると、俺の器を持って厨房に入った。
「お客さんが増えてきて、否応なくって感じで動いてたけど、やっぱり働くっていいんだよな」
おかわりを盛りつけながら、ぼそぼそ言う。カウンター越しの表情は、なんだかさみしげだ。
「俺も今から、師匠みたいになれる?」
空気を変えたくて、俺は言った。
「俺みたいにって、どんな?」
「魔法みたいにうまい料理作って、次々仕事こなしながらも平然としてて、すごいじゃないスか」
「魔法みたいに、か」
ますますさみしげになる顔。笑うようになってくれても、それは表面上だけなのか。師匠はまだ、この生活をいいとは思えないのか。それとも、弟子にしてくれって言った俺の言葉を信用してないのか。この暮らしにもどうせすぐ飽きる、とか思ってるのかな。俺もさみしくなりながら、思う。
「魔法が使えるようになるまでには、修業が必要だぞ。時間がかかるし、最初は地味だから嫌になるかも知れない」
優しいまなざしで、盛りつけた丼を俺に渡す師匠。
「とにかく、やってみようか」
思いっきりうなずく俺に、師匠はふわっと笑った。さみしさが消える。師匠が笑ってくれるのは、やっぱりうれしい。
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