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夜。俺が風呂から上がると、師匠はリビングで床に直座りして、ノートパソコンの画面をじっと見ていた。
「なにやってるんスか?」
「売り上げ、上がってきたなあって」
師匠は缶ビールを飲むと、パソコンから離れて後ろのソファの座面に頭を預けた。先に風呂に入った師匠の髪は、まだ濡れている。
「俺のおかげでしょ?」
タオルを首にかけ、隣に座りながらドヤ顔で言うと、師匠は身体を起こして真面目にうなずいた。
「料理の手を止めなくて済んで、いろいろ効率よくなったからね。助かってるよ。ありがとな」
「だよね、俺役に立ってるよね」
自分でも、しっぽ振りまくりの犬状態なのが分かる。面と向かってほめてもらえると、うれしい。こんな俺でもまっとうに働いて、好きな人の役に立てる。
「うん、接客も結構うまいしね。おかげでリピーターも増えてきたかな」
「やっぱり? 俺の愛想のいい接客に師匠のうまい料理、最強じゃないスか」
師匠が、俺の頭にそっと手を置く。
「ユウゴはいつもキラキラしてて、いいな」
少し首をかしげて、俺の頭をなでる。やっぱり師匠がなんだかさみしそうで、思わず抱きついた。
「だって今、超楽しいもん。人様を泣かせるようなこともしなくていいし、好きな人と一緒に働いてメシ食って、エッチして、毎日マジ幸せっス」
「……そっか」
師匠の腕がゆっくりと、俺の背中に回る。たった二ヶ月俺といたぐらいで、心の傷が癒えるわけない。さすがに調子に乗りすぎだ。でも、師匠がさみしいなら。
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