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「そっか……」
師匠は目を伏せ、手に持ったままのブックレットを眺めた。たぶん、書かれている内容は目に入ってないだろう。
「師匠は、別に好きな人とヤらなくてもいいの?」
途方に暮れているように見える横顔。長い指がブックレットをめくると、シュウさんが笑っていた。その笑顔に、なんだか無性にイライラする。
「やめよう、そういう話は……」
「俺は、シュウさんは師匠に抱かれたくてたまらなかったと思う」
師匠の本音が知りたかったから、無視して話を続ける。
「全部じゃないけど二人のやりとり聞いてたから、分かる。シュウさんはマジだった。あんなふうに優しくされたら、そりゃ大事にされてるって思って舞い上がっちまうよね」
師匠はうつむいて、ブックレットをじっと見つめる。その横顔が、すごくつらそうで。
「まだシュウさんは、師匠のこと忘れてないって」
「やめてくれ……」
弱々しいつぶやき。
これで分かった。師匠はたぶん、シュウさんを抱かなかったことを後悔してる。
「抱かれてなんぼの人だから、抱かれずに終わったら逆に強烈に印象に残るんじゃない?」
俺、妬いてる。かっこわりい。わざわざ言わなくてもいいこと言って、師匠を傷つけてる。
師匠は黙った。沈黙を、シュウさんの歌声が埋める。イライラして苦しくて、CDを止めたくなる。
「もし、師匠がまだシュウさんのこと好きなのに、俺に抱かれてるんだったら……」
「それはないよ」
師匠は顔を上げて、きっぱり否定した。
「マジで?」
秒で否定されたのがうれしくて、俺は半笑いみたいな顔になる。
「うん。シュウ君には幼なじみだっていうボスがいるだろ」
「でも、シュウさんはあのボスとはそこまでじゃなさそうに見えたけどな」
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