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 首をひねる俺を見て、師匠はふっと笑い、ブックレットを閉じてテーブルに置いた。 「案外、自分がどれほど愛されてるかってことに、人は気づかないもんだよ」  師匠は、テーブルの上で汗をかいてる麦茶入りのコップに手を伸ばして、一口だけ飲んだ。 「その言葉、まんま師匠に返しますよ」  俺の言葉に、怪訝そうな顔になる師匠。 「師匠こそ、そうじゃないスか。相手が自分を好きなのに気づかないで優しくして、相手が勘違いしてハマっちまう。常連にもそんな感じのいるから、気をつけてもらわないと」  言いながら、気づいた。俺も似たようなもんだ。あの日病院で本気で心配してくれた師匠に、あんなに純粋に人に心配されたことなんてないから、あの時完全にハマっちまったんだ。しかも、自分だってどうなるか分からない、そんな時にだったからなおさらだ。 「そう、なのか?」  ほら、そういうとこっスよ師匠。俺の嫉妬にも気づいてないでしょ? 「そうっス、だからむやみに客に笑顔振りまくのやめて。自分がイケメンだってこと、もっと自覚してもらわないと」  普通に客にも笑顔見せるようになったのはいいんだけど、さ。どうしてももやっとするんだよな。 「振りまくって、そんなつもりは……」  困惑気味に言う師匠。全然分かってない。 「今だって、俺がどんだけ妬いてるか分かってないでしょ!」  振り絞るような声が出て、顔が熱くなる。師匠が好きだ。独り占めしてたい。ずっと一緒にいたい。他のヤツには目もくれないで欲しい。  師匠は顔もスタイルもよくてプロのシェフで優しくて、モテる要素がいっぱいあるけど、俺にはなにもない。  俺、イケメンのままの方がよかったかな。そしたら俺目当ての常連客なんかもできて、師匠もちょっとは気にしてくれたかな。そんな、バカなことを考える。 「ごめん、ユウゴ」  俺を抱きしめる師匠を、子供がぬいぐるみを抱くみたいにぎゅっと抱きしめ返す。 「そんなふうに思ってたなんて、全然分からなくて……」  俺の方ばっかり好きだ好きだ言ってるから、師匠が俺のことを本当はどう思ってるのか、ちょっと不安だ。弱ってるところにつけこんだわけだし。
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