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「俺こそすんません、ガキで」
俺の頭をぽんぽんなでる、師匠の大きな手。
「正直言うと、俺だけがこんなふうに幸せに生きてていいのかなとも思うけど……」
師匠は俺の顔を両手で包み、しっかりと俺の目を見据えて言う。
「ユウゴには、本当に救われてるよ。ありがとう」
至近距離での微笑みが、本当にきれいで。
ほら、そういうとこっスよ師匠、と俺はまた思う。狙ってやってるわけじゃない仕草や言葉が、相手の心をわしづかみにしちまうんだ。
「俺のこと、好き……?」
なんだか泣きそうになって、声が少し震えた。
「うん、好きだよ。ごめんな、態度で分かってくれてるかなって思ってた」
つまり、自分がどれほど愛されてるかに気づいてなかったのは、俺もってことか? うれしい。
おでこをそっとふれあわせ、ゆっくりキスしてくる師匠。優しくて濃密なキスに、心がとろけそうだ。
いつもならキスすると条件反射的にエッチしたくなるけど、なぜだか今はそんな気にならなくて。キスした後、俺は師匠とぴったり抱きあったままその肩に頭を預けた。階段のそばに置いた、ゴミ袋が目に入る。
そうだ、明日はゴミの日だ。朝イチでゴミを捨てて、紙ナプキンも頼まないと。他に足りなくなりそうなもの、あったかな?
毎日そんなことだけ考えて、師匠と暮らしていけたらいいな。そんな思いは、どんどん強くなる一方だ。
「なあ、これからも、俺と一緒にずっと暮らしてくれるか?」
遠慮がちに、そろそろと言う師匠。上目遣いではにかんだ表情に、心がズキュンとする。
うわヤベえ、ほとんどプロポーズじゃん、これ。
「もちろん。俺は最初からそのつもりっスよ」
うれしさでにやけそうになるのを隠して、ドヤ顔で言う。
「そっか、ありがとな。なんとなくで来ちゃった気がして、気になってたんだ」
ほっとしたように、目尻をくしゃっとさせて笑う。その笑顔の優しさが、心に染み渡る。
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