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 漂ってくる、懐かしい気さえするにおいを思いきり吸いこむ。にんにくとトマト、それにピザを焼く時の香ばしいにおいが混じりあったような、この先に確かに師匠がいる、そう思わせてくれるにおい。  師匠と最後に会ってから、半年近くが過ぎていた。今は春。どこからかひらひらと飛んできた桜の花びらが、俺の目の前を横切る。ぬるい闇を、俺は目指す店へと急いでいた。ラストオーダーのちょっと前に着くつもりが、ギリギリだ。  商店街のメインストリートを曲がる。細い路地に入ってすぐ、「リストランテ カワカミ」という小さな看板。事前に下調べはしてたけど、それを見てちゃんと店が開いてることになんとなくほっとした。きっと歓迎はされない。でも久々に俺の「師匠」、カワカミダイスケさんに会える。  店のドアを開けると、師匠が厨房から出てきて言った。 「いらっしゃいませ、もうすぐラストオーダーですがよろしいですか?」 「あっ、はい」  笑いもせずに、棒読みみたいな感じで言う師匠。正直、ビビった。顔色は悪いし、目の下のクマが濃い。目つきもなんだか険しい。耳に優しい柔らかい声は少しかすれて、もともとひょろっとした人だったのが、ますますやせたみたいだ。  俺は内心ショックを受けながらも、案内された二人がけの小さなテーブルについた。やっぱり、店は今師匠一人で回しているらしい。  狭い縦長の作りの店の一番奥に厨房があって、厨房の前にカウンター席が三つ。テーブル席は通路を挟んで、左に四人がけが二つ、右に四人がけ一つとと二人がけが二つ。今客は、カウンター席で飲んでるカップルと俺だけだ。  まだ店を始めたばっかりだからか、それともそういう気がないのか、店内はほとんどなんの飾りつけもされてない。笑顔もなく客を迎えた師匠の気持ちが出てるようで、心が冷える。
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