私の初めての告白

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『二月十四日は、結婚記念日』  お寺の掲示板には、墨で書かれたありがたいお言葉が掲示されているのだが、いつ見ても攻めた感じで、毎月楽しみにしていた。今月のこの言葉に込められた意味がわからず、ぼんやりとその達筆を眺めていた。 「イタリアではバレンタインデーに結婚をすると縁起がいいと言われていて、この日にプロポーズをしたり結婚を誓うカップルが多いそうです」  その声にハッとして振り返ると、お寺の住職である一心(いっしん)さんが、仏様のような笑みを浮かべていた。 「……では、これは……一心さん自身のことでは、ない?」 「ええ。私は、独り者ですから」  照れながらそう言った一心さんの前に、真っ赤な紙袋を差し出した。結婚していようが、していまいが、渡すつもりだったチョコレートだ。この私が、企業の商業目的に乗っかるなんて、夢にも思っていなかったが。 「私も、独り者なので」  目を丸くする一心さんに、ズイッともうひと推しした。それでも、受け取ろうか迷っているのを感じた。 「あなたがどう思おうが、私はあなたが好きなのです」  そう言うと、半ば強引に紙袋を受け取らせた。もう、ここには来れないなと思いながら、でも、また来てしまうんだろうと思いながら。 「ありがとうございます」  去り行く背中に、一心さんの声が微かに聞こえた。
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