最終列車

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   伸びたタバコの灰を灰皿代わりにしている小皿へ落としてから一口吸う。    あの夜、新幹線から見た街の灯りの中に現在(いま)、二人でいる。  仕事の都合で転勤してきた縁もゆかりもない土地。そう思っていたが。 「どうしたの真也、風邪引くよ」  なかなか戻ってこない僕を心配して莉緒が顔を出す。 「何見てるの?」  そう言うと好奇心に釣られて僕の横へとやって来た。 「ああ、今最終の新幹線が通ってて。初めて莉緒と実家に帰った時の事思い出してた」 「懐かしい、バタバタして行ったね」 「今思えば土曜の朝からの方が絶対よかったよな」 「確かに。なんであんな急いで行ったんだろね」 「莉緒、新幹線の中ですでに滅茶苦茶緊張してて」 「当たり前でしょ、だってご挨拶に行くんだよ?」  二人の吐く息が白く、流されてゆく。 「あの時さ、ここのお城見えたよね」  僕の問いに莉緒がはにかみながら答える。 「覚えてたんだ」 「私は引っ越してきてすぐ分かったよ、だって」  莉緒はとっくに気付いていた、この地が二人にとって特別な場所だと。  あの最終列車は、間違いなく二人にとって大切な思い出なのだ。 「ほら早く入ろ、ホントに風邪引くよ」  寒空に長居しすぎて足先の感覚はすでになく鼻が痛い。確かにこのままでは風邪を引いてしまいそうだった。  莉緒に促され二人して部屋へ戻ろうとした矢先、再び光の線が横切っていった。  思わずずっこけて堪らず叫ぶ。   「さっきの最終ちゃうんかーい!」
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