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紺のパンツスーツを着こなす痩身、黒のショートヘアとマスクの間で覗く理知的な双眸、綺麗に形を保ったネクタイ、全身から放たれる堅苦しい雰囲気に唯一抗う、淡桃色のネイルチップ。
「……ぁ」
これは、幻覚か?
日吉は混乱に足が竦んだが、下手に時間を食うわけにはいかなかった。なにより女の不審を買うのを恐れた。
日吉は女に軽く会釈をし、間隔を空けて隣に立った。直後、もったいをつけるようにして扉が閉じられ、足元が曖昧になる。目的地の九階に向けて(十階は社長の自宅フロアである)、箱はこれまた焦燥を増幅させる速度で上昇し始めた。
それにしても。
女の横顔を一瞥した日吉は、改めて自分との対比に内心で嘆息した。
彼女はまさに、社長を殺す前の私にそっくりだった。
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