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克幸(かつゆき)は山の中を走っている。この辺りは無人の山林だ。車の通りは多いが、何もないためか、素通りしていくだけだ。
大学の春休みは長い。長い春休みを利用して、ドライブをしてみようと思った。行先は特に考えていない。この先に何があるのかもわからない。
「まだ町は遠いな」
その先にも無人の山林は続く。ここには集落があったんだろうか? 昔はここに集落があったんだろうか? 全くわからない。
まだまだ先は長い。ここで少し一休みしよう。だが、一休みする場所がなかなか見つからない。やむを得ず、克幸は進んだ。
進んでいく行くうちに、広い駐車場に出た。だが、駐車場の所々からは草が出ている。もう何年も手入れをされていなくて、もう使われていないようだ。だが、立入禁止の札はない。
「ここで一休みしよっか」
克幸は車を停め、外に出た。駐車場には自分の車以外、全く停まっていない。
「はぁ・・・」
克幸は辺りを見渡した。どうしてここにこんなに大きな駐車場があるんだろうか? いつごろ、この駐車場が何に使われていたんだろう。
「ここはどこだろう」
「ねぇ?」
と、克幸は誰かに話しかけられた。ここに人がいるのか? しかも男の子のようだ。どうしてこんな所に子供がいるんだろう。
「ん? 誰?」
克幸は振り向いた。そこにはオバケがいる。顔と胴体、手が白く、下半身が白い尻尾のようになっている。
「遊ぼうよ」
克幸は戸惑った。オバケと遊ぶとは。本当にいいんだろうか? 呪われないだろうか?
「い、いいけど」
克幸はオバケについて行った。そこには雑草が続いているが、足元に違和感がある。克幸は下を見た。そこにはアスファルトがある。だが、雑草だらけであまり見えない。もう何年前から整備が続いているんだろう。
「ここは?」
克幸は驚いた。こんな山奥に、何があったんだろう。こんな所にあって、需要はあるんだろうか?
「遊園地だったんだ」
「こんな山奥に?」
ここに遊園地があったとは。遊園地は行った事があるけど、行った場所はそんなに多くない。たいてい、東京ディズニーリゾートがほとんどだ。
「うん。だけど、あんまり人が集まらなかったんだ。楽しい場所だったけど」
「そうなんだ」
オバケは寂しそうな表情だ。あっという間に人が集まらなくなって、閉園してしまったようだ。こんな遊園地、たまに見かけるけど、克幸はあまり気にした事がなかった。
「遊園地って、競争に負けるとこうして消えちゃうのかな?」
「うーん・・・」
克幸は考えた。今まで考えた事がなかった。関東では東京ディズニーリゾートに1人勝ちのようで、他には行きたいと思わない。あるとしても、大阪のユニバーサルスタジオジャパンぐらいだ。
と、克幸はまばゆい光に包まれた。克幸は目を閉じた。何が起こったんだろう。克幸にはわからない。
克幸が目を開けると、そこには遊園地がある。現役の頃だろうか? 遊園地は多くの人で賑わっている。こんなに賑やかな時代があったんだろうか?
「こ、これは?」
「昔の遊園地?」
オバケは笑顔で答えた。賑わっている遊園地を見て、嬉しそうな表情だ。
「うん!」
「こんなに賑やかだったんだ」
だが、オバケはすぐに寂しそうな表情に戻った。それは、その遊園地の歴史のようだ。
「うん。だけど、それは最初の数カ月だけ。すぐに飽きられて、全然人が来なくなったんだよ」
遊園地が開業したのはいいものの、最寄駅から遠く離れていて、交通の便が悪かったため、すぐに人が来なくなった。当初から設定していたシャトルバスはすぐにガラガラになったという。それでも遊園地は客を呼ぶために様々なイベントを計画した。だが、どのイベントも不発で、地元が支援をしながら、何とか営業していたという。だが、万策は尽きて、数十年前に閉園したという。
「寂しいね」
と、別のオバケが克幸の横にやって来た。そのオバケは遊園地で遊んでいるようだ。
「メリーゴーランド乗ろうよ!」
「いいね!」
克幸はメリーゴーランドに乗る事にした。メリーゴーランドには何人かの客がいるが、そんなに人がいない。すぐに乗れるようだ。
克幸とオバケは馬の乗り物に乗った。メリーゴーランドに乗るのは、何年ぶりだろう。遊園地に行けば、ジェットコースターに乗る事が多い。
「それでは、回りまーす」
従業員のオバケの掛け声とともに、メリーゴーランドが回り出した。乗っているオバケは楽しそうだ。
「楽しい?」
「うん!」
克幸はいつの間にか笑顔になっている。やはりメリーゴーランドは楽しい。どうしてかわからない。何がそうさせるんだろうか?
メリーゴーランドから降りた克幸は次に何に乗ろうか考えていた。いろんなアトラクションがある。どれも楽しそうだ。
「ジェットコースターに乗ろうよ!」
「うん!」
克幸はその誘いに乗った。ジェットコースターは遊園地で一番好きなアトラクションだ。落ちる時の興奮がたまらない。
克幸はジェットコースターに乗った。ジェットコースターにもあまり人が乗っていない。最盛期にはどれだけの人が並んでいたんだろうか?
「それでは出発しまーす」
従業員のオバケが合図をすると、ジェットコースターが動き出した。ジェットコースターはどんどん上がっていく。カタカタと音がする。それだけでも興奮してくる。これからファーストドロップなんだ。
「だんだん上がっていくね」
「ワクワクしてきた!」
克幸もオバケもワクワクしている。どこまで上るんだろう。
ジェットコースターが最初の坂を上りきり、てっぺんにやって来た。無人の山林が広がっている。とても雄大な光景だ。こんな風景が昔は見られたんだな。
風景に見とれていると、ジェットコースターは猛スピードで落ちた。
「キャー!」
2人とも興奮している。遊園地にいると、なぜか時間の事を忘れてしまう。どうしてだろう。
ジェットコースターは右に左に猛スピードで疾走する。2人とも大きな声で叫んでいる。克幸もその時はまるで子供に戻ったかのようだ。
ジェットコースターに乗った克幸は、帰ろうと思った。もう行かなければならない。次の目的地はまだ遠い。早く行かないと日が暮れる。
「今日は楽しかったね!」
「うん!」
と、辺りが再びまばゆい光に包まれた。そして、元の廃墟に戻った。昔はこんな風景だったんだ。人がいなくなって、閉園して、そのままこうして放置されているんだ。
「もう乗れないんだね」
「寂しいけれど、これが現実なんだね」
オバケは寂しそうだ。多くの子供が来て遊んでいたのに、あっという間にいなくなってしまった。栄光ははかないものだろうか?
「今日はありがとう」
「こちらこそ、遊んでくれてありがとう」
克幸とオバケは握手した。そして、克幸は駐車場に戻っていった。オバケはじっとそれを見ている。また寂しい日々が続く。今度誰かが来るのはいつだろう。
「こんな豊かな時代があったんだな」
克幸はそう思い、車に乗り込んだ。勝ち組はこうして巨額の富を得るが、負け組はこうして寂しい日々を送ってしまうんだろうか? 大学を卒業したら、就職が待っている。負け組になってしまうと、こんな現実が待っているんだろうか? そのために、今を頑張らねば。
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