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白壁に囲まれた箱庭に、やわい光が降り注いでいる。
地に敷かれた白の石畳には、草木が宿る隙間もない。その丁寧さが、かえって場の排他性を強調している。かすかな風音すらも、ある種の冷たさを孕んでいるようだった。
殺風景な箱庭を彩るものと言えば、ここに住まう者たちの窓辺だけである。
金の窓縁に光の粒が触れる。常と変わらぬ朝が訪れてようやく、箱庭の住人たちも動き始める。
(……もう朝か)
住人の一人である紫苑は、小さく息を吐いた。
重たげに尾を引く音が空気に溶ける。彼はようよう、床に敷いた布団から半身を起こした。
波紋のごとく広がる豊かな髪を肩口で結わえ、浴衣を脱ぐ。衣擦れの音とともに露わになるのは、陶器のように滑らかな背中。彼はそれを惜しげもなく窓の外へと向けた。
これから日が沈むまで、紫苑は一糸まとわぬ背を人の目に晒して過ごす。
箱庭に足を踏み入れた者の視線が、束になって注がれようとも。紫苑には関係のない話だ。
外に目を向けることもせず、ただ淡々と背中で受け止める。それが箱庭の主との約束なのだから、箱庭の住人である以上は従うほかない。
(さて……。今日も退屈との我慢比べだな)
今はもう、何も思うことなどない姿勢を保ち、紫苑は薄く笑んだ。
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