第6話.おもてなし

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私は一礼してから竜司様を見送る中、楓様は振り返ることなく、その場で黙って立ち尽くす。 何となくお二人の関係性は想像出来たけど、実際目の当たりにすると、何とも殺伐としていて、身内とは思えないくらい背筋が凍る雰囲気に胸が締め付けられる。 東郷代表に対しても冷めた空気を感じたが、それとは比較にならない程に加え、楓様と竜司様の間には憎悪の念まで感じ取れてしまう。 これが、嫡出子と婚外子の兄弟事情なのだろうか。 私には到底想像出来ない環境に、冷や汗が流れ始める。 楓様はあのような扱いにずっと耐え続けていたのだろうか。 だから、白鳥様が仰っていたように、復讐したいという気持ちが生まれた。 そう思うと益々息が詰まるような想いに、私は思わず胸に手をあててしまう。 とりあえず、今日は晴れて楓様が繁忙期から解放された日でもあるので、この重々しい空気を何とか打破しようと私は一歩前へと踏み出す。 「楓様、今日はリラックス出来る入浴剤を使用しますので、ゆっくり浴槽にお浸かりください。あと、入浴後のマッサージもいかがですか?当ホテルのリラクゼーションサービスはなかなかに評判なのですよ」 そして、顔色を伺うように覗き込むと、満面の笑みを向けながら先程自分の中で立てたプランを提案してみた。 「…………そうだな。あんたの好きなようにしろよ」 すると、暫く無表情でこちらをじっと眺めてきたあと、小さく口元を緩ませてから素直に頷いてくれた楓様の反応が嬉しくなり、顔の筋肉が緩みだす。 「それならば、お夕食は栄養のあるものをご提供します。ここのところ楓様はまともなお食事をなされていないようですし、今日は全て私にお任せください」 ここはバトラーであり、私のおもてなし精神を思う存分発揮できる良いチャンスだと思い、今までの疲労を何とか癒して差し上げようとやる気に満ち溢れてきた私は、自信満々に鼻をならした。 「別に良いけど、あまり出しゃばった真似はするなよ」 そんな突っ走ろうとする私を制するように、ピシャリと放たれた楓様の冷めた一言によって私はふと我に返る。 「はい。肝に命じておきます」 それから、自分自身にも言い聞かせるように、私は口元を緩ませたまま、ゆっくりと首を縦に振ったのだった。
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