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「……名前……」
「はい?」
すると、そのまま受け流されるかと思いきや、急にキーボードを打つ手を止め、暫く口を閉ざした後ポツリと呟いた楓様の一言に、私は肩がぴくりと動く。
「美守って名前、珍しいな」
まさかの会話が続いたことと、自分の名前について聞かれたことに驚きを隠す事が出来ず、私は一瞬思考回路が停止してしまった。
「……あ、はい。どんな時も清く、正しく、礼節をわきまえる。言葉遣いは綺麗で、丁寧に。人に優しく素直で謙虚な姿勢を忘れない美しい子であって欲しいとの願いで名付けられました」
それから直ぐに我に帰ると、私は昔から言い聞かされていた由来を流暢に説明する。
「なんか随分と戒められてんな。聞いてて堅苦しい」
そんな私の解説に楓様から痛いところを突かれてしまったけど、それは人からもよく言われているので、私はあまり気にすることなく、笑顔を見せる。
「そうですね。でも、それが今まで道標となっていたので、私はこの名前に誇りを感じていますよ」
そして、自信をもってはっきりとそう答えた。
すると、楓様は急に真顔になると、黙ったままこちらをじっと見据えてきて、私は訳が分からずたじろいでしまう。
「……誇り……か」
それから不意に視線を逸らし、何かに思いを馳せるように遠い目をしながらポツリと呟いた楓様。
普段は関心なんて見せないお方が、何故人の名前に興味をお持ちなのか。
楓様はご自身の呼び名を下の名前で呼ばせる事に拘っていらっしゃった。
それは、東郷家を毛嫌いしているものだからと思っていたけど、何だかこの反応を見ていると、それだけではないようにも思えてくる。
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