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「ええ!?東郷様に下の名前で呼ばれるって、それってかなり美味しい状況じゃないですか!?てか、御曹司様に名前で呼ばれるなんて、それこそ夢みたいな話じゃないですかぁ!」
すると、そんな私を他所に再び桜井さんの目が眩い程に輝き始め、またもや有無を言わさない圧力がかかり、自然と足が数歩下がってしまう。
「そ、そんな。ただの呼び名ですから。深い意味なんて何もないですよ」
このままだとまた良からぬ方向へと暴走しかねないので、私は誤解がないように桜井さんにはっきりとそう言い聞かせた。
「確かにそうですけど。でも無関心な人を下の名前でなんて普通は呼ばないですよ。それってつまりは少なくとも東郷様は美守先輩を気に掛けているってことなんじゃないですか?……もしかしたら、このまま行くところまで行っちゃったりして!?」
それなのに、見事論破されてしまい、何も言えなくなってしまったのをいいことに、桜井さんの圧が波のようにどんどんと押し寄せて来る。
「も、もうやめて下さい!楓様と私がそのような関係になるなんて天地がひっくり返ってもありえないですからっ!」
恥ずかしさの余りこれ以上耐えられなくなった私は、強制的に話を終了させる為に、顔を真っ赤にさせながら思わず声を張り上げてしまった。
「あはは。すみません、冗談ですよー。美守先輩の可愛い反応が見たくて、つい」
そんな焦る私とは裏腹に、何てことない様子で笑い飛ばして来る桜井さんに、がくりと肩の力が抜け落ちる。
「……けど、何はともあれ、お客様として東郷様と良好な関係であるのは間違いないと思いますよ。初バトラーなのに、やっぱり美守先輩は流石ですね」
すると、最後にはやんわりと笑いながら言われた桜井さんの言葉に私は面を食らってしまい、再び何も言えなくなってしまった。
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