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「じゃあ、あたしたちも行こっか」
そんな俺を尻目に、軽い足取りで自分の下駄箱へと向かう月野。
「行くって、どこにだよ」
恨めしげな声音で月野に問う。
「学校前の喫茶店、でしょ?」
くるりと俺の方を振り向くと、月野がにっこりほほえんだ。
「小降りとはいえ、さすがに15分も雨の中歩いて駅まで行くのはキツイもんねー」
「うーん……でも、あそこかぁ」
カフェというよりはレトロな喫茶店というのがピッタリな店構えのせいか、学校の目の前にあるにも関わらず、うちの学校の生徒はあまり寄り付かない場所だ。
まあ、生徒が寄り付かない理由は、そこが教師の溜まり場だからという方が大きな理由だとは思うが。
どちらにしても、ふたりでそんなところにいるのを見られたりしたら、キッチリ誤解されるだろう。
「ってか、ほんとにあと一時間でやむのかよ、これ」
どんよりとした空を見上げて俺がぽつりとつぶやくと、
「桜子が言ってたんだから絶対だよー」
と、自信満々に言い返された。
だからあいつは一体何者なんだ?
「ま、コンビニで傘買うにしたって、駅より遠いからなあ」
思わず天を仰ぐ俺。
「今日はなに奢ってもらおっかなー」
ニヤッとしながらそんなことを言う月野に、
「おい、今日は奢んねえぞ」
と、ムッとして言い返す。
「ふふっ、冗談だってば」
「っていうか、俺に協力してくれるって話はどうなったんだよ」
「えー、それはいつもちゃんとしてあげてたでしょ? でも、藤ってばモタモタしすぎなんだから。そんなことしてるうちに、誰かに告白されちゃうよ?」
「えっ、他にも二葉のこと好きなヤツいんのかよ」
慌てて月野に問うと、月野は腕組みして大きなため息をついた。
「いるに決まってるじゃない。あんなにカワイイんだから。でも、あたしが言いたいのは、そういうことじゃなくて――」
そこまで言うと、月野は言葉を切って、俺のことをじっと見つめてきた。
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