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「うっそ。どうしよう」
昇降口の手前で、吹奏楽部副部長兼クラリネットパートリーダーの月野明里が立ち尽くしている。
「うん? どした?」
月野のところまで行くと、月野の指さす方をみんなで一斉に見る。
「げ、雨降ってんのかよ。誰か傘持ってる?」
部長兼トランペットパートリーダーの俺、藤大和が尋ねると、
「持ってるわけないじゃん。朝、晴れてたし」
頭の高いところでまとめたゆるくウェーブのかかった長い髪を揺らしながら、月野が速攻で言い返してくる。
「だよなー」
全体練習が終わって、片付けが終わるまではたしか降っていなかったはず。
パートリーダー会議が長引いたせいか?
あーあ、ツイてねえなあ。
「わたしは持っているぞ」
ふんっと鼻を膨らまして得意げに言うのは、パーカスパートリーダーの梅沢桜子。
少々癖のあるしゃべり方の梅沢は、日本人形のような長いストレートの黒髪の持ち主だが、見た目に反して彼女のドラムの演奏技術はまさに玄人裸足。
「え、すごっ。今日って雨の予報だっけ?」
月野が首をひねっている。
「いや、わたしの第六感が持っていけと言っていたのでな」
「すごーい。さすがだね、桜子ちゃん」
胸の前で両手を組み合わせて素直に感心する、フルートパートリーダーの二葉葵。
小柄な二葉が梅沢を見上げると、色素の薄い肩までの髪がさらりと揺れる。
いやいや第六感て。普通に怖いだろ、それ。
いやでも、こういうときに素直に感心できる二葉がカワイイんだよなぁ。
そんなことを考えて、思わずでれっとしそうになる口元を引き締める。
さあ、月野。おまえの出番だ。
うまいことやってくれよ?
俺が月野に目配せすると、それに気付いた月野が、他のふたりに気付かれないように俺の方をちらっと上目遣いで見上げてきた。
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