キワコのオハギ

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「おなか、減ってるのかな?」  そいつは希和子の言葉を理解したように、うんうんと首を上下に振った。 「ちょっと待ってね」 そう言ってカバンの中をがさごそさぐり、小さなポーチを取り出した。中からラムネのボトルを取り出し、一粒を手に取り、そいつの鼻先にさしだしてみた。そいつはしばらくラムネをじっと見つめ、鼻をひくひくさせて匂いを嗅いでから、両の前足をにゅっと伸ばして、礼を言うかのように頭をぺこりと動かし、彼女の指先からラムネを受け取った。よく見ると、小さな前足には、米粒のような指が四本付いていて、器用に物を掴むことができるようだ。前足というより、手なのだろうか。  その、前足なのか手なのか、とにかく両手で掴んだラムネを口元に運び、鋭い前歯をむき出してガリガリとかじり始めた。  二、三口かじると、動きを止めて顔を上げ、目を細める。 「あれ、もしかして駄目な食べ物だったのかしら」  希和子の心配をよそに、そいつはラムネをまたかじり、やはり目を細めて天を仰ぎ、咀嚼している。どうやら、味わっているようだ。  ラムネ一粒をペロリと平らげると、物欲しそうに希和子を見つめた。その、こびる仕草がとても愛らしく、さらにラムネを一粒さしだすと、そいつはチチっといかにもうれしそうな声を出してペコリと頭を動かしてから両手で受け取り、カリカリとかじった。  身体を丸めて懸命にラムネをかじる姿を眺めながら、何かに似ているなと思う。手のひらサイズで、小豆色のまあるいもの。 「そうだ、オハギだ」  希和子の声に反応して、そいつは動きを止めて顔を上げ、頭を上下させ、チチチと鳴いた。肯定しているような気がする。何者かはわからないが、オハギと呼ぶことにした。
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