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 海が鳴る。  窓辺に椅子を引き寄せて、窓枠の上に頬杖をついて、少女は海を眺めていた。潮風が室内に滑り込み、テーブルに載ったスープの熱を奪う。それでも彼女は構うことなく、そばかすの浮いた肌を窓外に向け、パサついた銅色の髪をなびかせ、樺色の瞳に波の表面を映していた。  海面は穏やかだった。  雲一つない快晴を真似て、鮮やかな青に染まっている。陽光を受けた波が、砕けたガラスの欠片のようにチラチラと、白銀色に輝いている。夜になれば、今度は月光を受けて同じように煌めくのだろう。  ザザン、とまた海が鳴る。海猫が甲高い声を上げる。  海を見下ろすこの家に少女が越してきてから、もう五年は経った。  肩までだった銅色の髪は腰まで届き、一つに束ねなければ鬱陶しくて仕方ない。あんなに好きだったピンク色に飽きて、クローゼットの服はほとんどが白黒になった。頬のそばかすも増えたし、背だって結構伸びた。  それでも、少女が窓から見下ろす海は、少しも変わっていない。色も、音も、匂いも、動きも。  厳密に、まったく同じ瞬間はないのかもしれないが、少なくとも少女にとって、窓外の景色はいつでも見返せる動く絵画のようなものだった。
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