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 ひょっとして、夢だったのかもしれない。  少女自身、確信を持てないままでいたが、彼女にとってその記憶が夢か現実かということは、さして重要ではなかった。  あの日、海に呑まれた日。  少女は薄明りで目が覚めた。  ドーム型の部屋の中央に置かれたベッドで、彼女は横になっていた。  そこは不思議な空間だった。  どこからか、ブクブクと泡の弾ける音が絶え間なく聴こえてくる。かすかにだが潮の匂い。壁紙や家具、自分の肌に至るまで、なぜか青みがかってみえる。  ふと、ここは海底なんじゃないか、と少女は思った。  ベッドから起き上がるとき身体が妙に重たかったが、それが水圧の所為なのか、溺れた所為なのか、よくわからなかった。 「ほら、見て」  一瞬、少女は聞き間違いかと思った。それは友達に話しかけるような、あまりに自然で、場違いに落ち着いた声だった。  いつからいたのだろう。気が付かなかっただけで、最初からいたのかもしれない。声の主はベッドのすぐ横に座って、ナイトテーブルに載った鉢植えを眺めていた。見たことのない植物が植わっている。 「白珊瑚が咲いたよ。綺麗な白色じゃない?」  しかし少女の関心は鉢よりも、その人物の方へ引かれていた。  貝殻の内側みたいに滑らかで白い肌。砂浜色の睫毛と髪。そしてなにより彼女の目を引いたのは、深い深い藍色を湛えた、二つのゆったりとした瞳――。  人魚だ、と少女は直感した。
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